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御人形遊び
【女性向け 官能小説】

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御人形遊び-1

「死のうか、いっしょに」
坂本にそう言われたとき、美樹はすぐに頷いたのだった。前々から死にたいと思っていたわけではなかったし、出来ればあと数十年は生きていたかったのだが、坂本が言うなら仕方ないと思った。
突然夜中に彼がアロエヨーグルトが食べたいと言い出して、美樹はまったくしょうがない人だなと子供のわがままを甘やかす母親のような気分でコンビニに出かけた事がある。そのときの気分に似ている気がした。坂本も、
「え? いいの? ほんとに」
などと、予想外に玩具を買ってもらえることになった子供のような顔をしてかさねて尋ねてくるものだから、美樹も再度しっかりと頷かずにはいられなくなるのだった。
坂本は美樹の頭を撫でて、長い指にブリーチのしすぎで痛んだ髪を絡ませて弄り、安物の化粧品にありがちなやたらに甘い香りのグロスでべたつく唇を塞いで、華奢な身体をてろてろと下品に輝くシーツの上に押し倒した。
美樹は天井に張られた大きな鏡に映ったふたりを眺めながら、リカちゃんハウスで遊んだ幼い頃のことを思い出していた。?ハウス?も、?人形?も、あまりにも、違いすぎるのに。美樹には素敵な家族もいなければ、清潔でおしゃれな家もない。人気者で背の高い恋人もいない。ここは美樹の知らないバブル時代の名残をあまりにも率直に残したラブホテルで、仰々しく、それから薄汚れている。恋人は、友達に言わせてみれば?変態?の坂本だ。24時間営業のファミレスで冷めてチーズが固くなったピザを咀嚼しながらそのことを言われたとき、美樹はその友達が死ねばいいと思った。

「ほんとに、ほんと?」
坂本は息を切らしながら何度も何度も確かめる。息を切らしているのは、美樹に挿入をして激しく腰を打ち付けているからだ。まだちっとも濡れていないのに、坂本は美樹の中に無理矢理に押し込んで、動く。どんなに痛くとも、美樹は頷く。美樹を揺さぶる坂本にその頷きが確認できているかどうかはよくわからないけれど。
この世の終わりみたいな顔をして尋ねつづける坂本に、美樹は感じる。薄い眉を寄せたその微笑にも、泣き顔にも見える不思議な悲愴の表情に美樹の身体はだんだんと性交するにふさわしい状態になってゆく。
やがて美樹が何度か気を遣って、あまり坂本の動きにも言葉にも反応しなくなると、坂本は下半身を繋げたままで美樹の細い首筋に手を当てて力を込める。そんなことは前にもよくあったが、嗚呼こうやって殺されるのかとその日の美樹はぼんやりとした意識のなかで思った。けれどもあと一息でぷっつりと事切れてしまいそうになる寸前で坂本は手を放し、美樹は反射的に咳き込みながら涙を流した。白い首にくっきりと坂本の指の跡が残っている。

「死にぞこなった」
しばらくボーッと天井の鏡を見ているだけの時間があって、美樹がちいさな掠れた声で言った。
坂本は無言で美樹の左乳房に吸い付いていたが、思い出したように美樹を優しく抱き締めて源氏物語の登場人物のようにさめざめと泣いて、美樹の頭頂部が涙に時雨れた。
「この、死にぞこない」
大して意味も感情もこもっていない口調で坂本が言ったので、美樹は悲しくなった。もっと罵って、かなしみと怒りにくれながら勢い余って殺してくれればいいのにと思った。

坂本はリカちゃん人形にするように美樹に洋服を着せて、櫛で髪を梳かせてベッドに寝かせた。
興味を失った玩具に言葉をかける子供がいないように、坂本もなにも言わなかった。美樹は、鏡に映った自分の姿を見ながら、坂本がそうするなら仕方ないと瞳を閉じた。


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