僕の、僕に対する、僕のための背徳-3
壁の掛け時計を見たら、11:00ちょうどになっている。なんだかおかしい。博士が来ない。博士が一週間に一度の、僕の健康チェックに遅れたことなんて無いのに。
−・・・ま、まさか!!!
僕がモニターに駆け寄って画面を覗きこんでみると、そこには・・・
ベッドの周りに王や博士が集まり、その囲まれた中で彼が目を閉じたまま横たわっていた。
とうとう、こんな日が・・・こんな日がやって来てしまったのか・・・。
「うううぅ・・・くぅ・」
堪えていても、口から漏れるこの声も、この涙も止める事ができない・・・。ああ、僕の全てだった彼はもういない。あんなになりたかった彼になれる時が来たのに・・・。僕の全てだった彼に。それなのにこんなに悲しい・・・。こんなに辛くて仕方無い。もう彼はこの世界にいないなんて!
でも僕が悲しんでいてはいけないんだ。僕は彼なんだから。僕が彼なんだから。僕こそが彼なんだから。何も知らずに王子の回復を願っている国民に、笑顔で会いに行かなければならない。皆が僕を待っている。王子であるこの僕を待っている。そして僕はやがて王となり、「彼」としてこの国を治めなければならない・・・。それこそが僕の生きる意義であり、望みだ。次にこの部屋を出る時には、僕はもう「彼」になるんだ。泣いてはいけない。くよくよしてはいけない。堂々として、気品があって、笑顔を絶やさない王子でなくてはいけない。
「コンコン」
ついにこの時が来た。博士や王が僕を『王子』として迎えに来たんだろう。
僕は涙を拭い、立ち上がって扉を開けた。
しかしそこには・・・。
「な・・・!?」
パタパタと音を立てて、赤い小さな粒が赤い絨毯へと次々に消えていく。僕の胸から生まれた赤い粒がすぐに大きくなり、一つの流れへと変わりゆく。短剣が僕の胸に深々と突き刺さっていた・・・。
−どうして?ど・して・・・?
崩れ落ちる僕の目に映るのは、僕と、そして「彼」と全く同じ顔の少年だった・・・。
ゆっくりと崩れ落ちていった僕と同じ顔の彼。血に染まった手を見ても、不思議と何も感じない。だって僕はずっとずっと、君よりもずっとこの時を待っていたんだから。思わず頬が緩んでいく。笑っているのかもしれない。とうとう、やっと、この時が来た。きっとこうしなければいけなかったから。こうしなければ僕は一生・・・。だってもう僕には耐えられなかったんだ・・・。「スペア」の「スペア」なんてさ・・・。これでもう僕だけが僕・・・だよね?
END