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僕の、僕に対する、僕のための背徳
【SF その他小説】

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僕の、僕に対する、僕のための背徳-2

 僕は机に置いてある小さな手鏡を覗き込む。鏡の中には少し長めの金髪がさらさらと額に掛かり、整った顔が映っている。この瞬間だけが、確かに僕は幸せなんだろうと感じさせてくれる。確かに『僕』は『彼』なんだと・・・。僕と彼は同じなんだって・・・。ただ一つだけ彼と違うのは、この薔薇色の頬。彼の青白い顔とは違い、僕の顔は健康的に輝いている。・・・そうだ。このせいで僕と彼は違うんだ。けれども、これが無ければ僕の存在価値が失われる。だから、『僕』が彼になれる日が来ても、『彼』が僕になれる日が来る事はない。きっとそんな事を彼は望まないだろうけれど。だからこそ、僕は彼の事なら何でもわかっていなければならない。それなのに彼は僕の事を知らない。僕の存在すら知らない。知る必要も無いんだけど。



 僕が彼であるというのは、ある意味において僕と彼は同じということだ。「ある意味」とは生物学上の話で、僕と彼の遺伝子が同じだということ。つまり、僕は彼のクローンなんだ。もちろんこの王国でも人間に対して、クローン技術を使うのは禁止されている。それは当たり前だし、王様ももちろん承知していた。でも事態は非常に深刻で、差し迫っていた。
 もともと体の弱かったお后様は、一人の王子を出産してすぐに亡くなってしまった。そしてたったひとりの王子も体が弱く、10歳までは生きられないだろうと医師の宣告を受けた。王様はとても悩んだ。王子が後継者になれなければ、必ず後継ぎ問題が起き、国が荒れて戦争になる。それだけは何があっても避けなければならない。この国の高い医療技術を生かしても、王子が後を継いで王としての責務を務めるまで、命を永らえさせる事は出来ない。そこで王が考えたのが、高い技術力を生かしたもう一つの方法、それは禁忌の方法だった・・・。王は科学者に命じ、王子の遺伝子の健康上の問題だけを改善させ、スペアとなる第二の王子を創り上げた。それこそがこの僕だったんだ。

 僕が彼のスペアなのは、僕の誇りだ。やがて彼のスペアとして僕が王になった時、立派に「彼」として王を務める事が僕の生きる目的であり、意義である。でも彼には、一日だって多く生きていて欲しい。だって、彼は僕なんだから・・・。けど、最近彼はベッドから起きる事も出来なくなっている。顔色も日に日に悪くなってる。特に今日は最悪だった。医師は、そもそも彼が15歳になれたことが奇跡だと驚いているくらいなんだから。


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