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『 Escape of Eden 』
【SF その他小説】

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『 Escape of Eden 』-2

 よく手入れの行き届いた庭には、数十種類のバラが、見渡す限りに咲き乱れ、むせるような香りがあたり一面に充満していた。
 
 芝生では友人達が簡単な球技にたわむれている。
 かすかに届く歓声が、さわやかな五月の景色の中で、眠りを誘う子守歌のようだ。
 散歩から戻ったのか、数組のカップルがテラスでたたずむ俺に手を振って、屋敷の中に消えていった。
 
 
「お茶でもいかがでございますか」
 
 我にかえって振り返ると、黒服の給仕がテーブルに、午後の紅茶を用意していた。
 最高級のダージリンが今朝届きましたもので、と手際よくカップに注いでいく。
 甘い香りが鼻をくすぐった。
 
 
 2100年の大戦で人類が失ったものは、生殖機能だった。
 放射能の影響か、それとも新種の細菌兵器がもたらした副作用なのか、勝った方も、負けた側も、意味のない戦いの代償に、未来を手の届かない暗闇に投げ捨ててしまったのだ。
 
 それを補うように、2100年以降のロボット工学の発展はめざましく、今では社会の枠組みは、すべてロボットが支えていた。
 
 確実に絶滅へと歩む人類という種の中で、わずかでも生殖の兆候を有するものは、地球規模で集められ、この収容所に送られる。そして果てしない検査と実験。まるで珍しい実験動物のように……。
 
 
「アップルパイもございますが、いかがなされますか」
 
「いや、いい。代わりに何か読む物が欲しい」
 
 俺がそう言うと、給仕はわかりましたと一礼してきびすを返した。
 その刹那、俺は立ち上がり給仕の後頭部に、手にもった鋼鉄製の灰皿を叩きつけた。
 
 床に突っ伏した給仕の後頭部から、バチバチと火花が散る。
 
 こりゃ、電子頭脳もおしゃかだな……。
 
 俺はテラスから庭に飛び出すと、芝生を横切り森に飛び込んだ。後方で俺の名を呼ぶ仲間たちの声が響く。
 
 もう一度逃げるだけさ。捕まって連れ戻されたら、また逃げてやる。
 
 ここにいれば何百年も生きるはめになる。必要のない臓器はどんどん機械に交換され、人間とは名ばかりのただの道具に成り下がる。
 
 俺は森を抜け街を見下ろす高台に出た。
 
 
 さぁ、追いかけて来い、ロボット警官さんよ。
 あんたたちが、俺を殺したくまで、何度でも、何度でも、何度でも逃げてやるぜ……。
 
 
 
 
       End


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