Fall apart-1
風が強い。
耳と髪の間に流れる涼風が囁き声にも聞こえる。
黄昏が染め始める赤い空を僕達は二人、じっと見つめていた。
瞳すら微動だにせず、
溶け込みたいとすら思いながら。
「今日は楽しかったね」
玲の声。
いつもずっと一緒に居た、愛しい彼女の声。
「まあね…」
撲が苦い笑みを浮かべると彼女は可笑しそうに笑った。
「絶叫系が苦手なんて可愛いすぎだし」
細い肩を微かに揺らし、笑いながら撲を見上げる。
そこに立ったまま、そっと触れるだけの口付けを交わした。
お互いの唇が冷たい。
「学校で言い触らすなよ」
息が掛かる程に顔を寄せ合ったまま、呟く。
くすぐったそうに玲が微笑んだ。
強い風に流されないよう左手で強く抱いた肩が暖かい。
今日は二人で初めて遊園地に行った。
高校生にもなって恥ずかしいとも思ったが、玲がとても楽しそうにしていたから満足だ。
電車を乗り継ぎ、知り合いが誰も居なさそうな遠方の遊園地を選んで良かった。
わざわざ遠方を選んだのには理由がある。
それは、僕達が付き合っていることを誰にも知られたくなかったから。
知られてはいけないから。
だから二人きりの時間が欲しかった。
少しずつゆっくりと黄昏が沈んでいく。
あとは、この世界の終焉のように闇に塗り替わってゆくだけだ。
やがて、僕達はどちらからともなく全く同じ瞬間に足を踏み出していた。
風のうねりに浮き上がるように、ゆっくりと躰が吸い込まれていく。
高いビルの屋上から、遥か数十メートル下の地面へと。
彼女の躰が引き離されないよう両腕で強く抱き締めた。
玲は撲の胸に顔を埋めながら、細い腕で撲の背中を強く抱き返す。
二人、絶対に離れないとでもいうように。
――撲と彼女は同じ日にこの世界に産み落とされた。
兄の撲は仁、妹の彼女は玲と名付けられた。
顔も性格もそっくりな僕らはまるで魂が繋がっているかのようだった。
やがて必然的にお互いを愛し合うようになった。
しかしそれがこの世界の倫理道徳では受け入れられないと知った時から、僕達の運命は決まっていたんだろうと思う。
…風が強い。
耳と髪の間に流れる風が叫び声にも聞こえる。
瞳を閉ざす瞬間。
黄昏の沈む赤い空が
ひどく眩しかった。
‥end‥