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『凛』王朝
【ファンタジー 恋愛小説】

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『凛』王朝〜英雄〜-3

『やはり私が無理をしてでも城に残れば良かったね…。そうすればお前たちにこんな事をさせなくても済んだ…。』
芳洵は王宮にいた頃、黎たちに日本人狩りをさせる事を反対し続けていた。前王ならこんな事はさせなかった、と。あんなに小さな子供に殺しをさせるのは人道に反する、と。しかし二世はきかなかった。中国の統一を保つため、何が何でも日本人狩りは必要であり、それをさせるのは日本人でなければならなかった。中国人に日本人狩りをさせれば、民間人からの心証も良くないし、もしくは信用も失うかもしれない。そのために‘機密’の軍は必要だったのだ。しかし、芳洵は反対し続けた。それに二世は痺れをきらし、前王に内緒で芳洵を王宮から追放。前王には『芳洵は死んだ』と偽った。黎が7つの時だ。
『芳洵様が気になさる事ではございません。これは、日本人の私に課せられた宿命なのです。中国人の私はここでは英雄でしょう。けれど、一生この黎の生き血は日本人のままでございます。それゆえ、この宿命からは逃れられないのです。突き進むと決めました。この憎しみを連れて。仲間を守るためにも。黎は強くなるのです。』
芳洵は寂しそうな瞳で黎を見つめる。
『いつからお前は…、そんな瞳をするようになったんだい?強くなるというのが、人殺しをする事とどう繋がる。お前の言う強さは、本物ではない。王命のために、自分の中の憎しみに全てを委ねて多くの感情を殺して、そのために他人の優しささえ見えなくなっているよ。お前が殺した人間にも各々の生活と幸せと悲しみがあったのだ。それを潰す事が強さかい?強さってのは、例え苦しかろうとも自分の人間らしさを信条を貫き通す事だろう?』
『いいえ…、それは違います、芳洵様。強さの定義はそれだけではございません。私は、芳洵様が王宮から去られた後、この憎しみと宿命に身を委ねるまで多くの苦しみがありました。そして知ったのです。この苦しみを越えて、私は強くなると。私にとっては、人殺しをする事が強さに繋がる唯一の方法です。殺しをすれば、何もかも許せる気がします。それしか取り柄もない。私の信条は、この道を進む事です。ですから、避けられないのです。遼たちもきっと、そうでしょう。』
『…許せる唯一の方法…か。』
『はい。』
『抜けられぬのか?その道から。』
『…申し訳ありません。』
黎は深々と頭を下げた。芳洵が自分を心配してくれている事は、重々わかっているからだ。
『そうか…。しかし黎よ。お前がさっき言ったように、お前はどこまで行っても日本人なのだ。中国人にはなれないんだよ。それを忘れるな。忘れれば、その時点でお前に災いが降りかかる。どっちつかずでいれば、いつか絶対に何かが起きて、お前を嫌でもどちらかに引きずり込むような事が起きるだろう。』
芳洵の瞳が鋭かった。こういう瞳をする時の芳洵の言葉は、あながち侮れない。
『迷うでないぞ。私はお前のしている事を認めるわけではないが、お前の敵に回るわけでもない。信条があるならば、それに従いなさい。何があっても見失ってはならぬぞ。』
『…はい。』
黎は真剣な瞳で答えた。
『おーい!れーい!もう帰るぞ!』
下から遼が呼んでいる。それを聞いて、芳洵が腰を上げた。
『さぁ、帰りなさい。今日は説教してしまったが、また来ておくれ。』
『ええ、言われなくても。』
芳洵と黎は手を握り合って、離した。
『ではまた。』
『ああ、また。』
やぐらの階段をリズムよく降り、黎は遼たちと城へ帰っていった。その背中を見送りながら、芳洵は止まる事のない胸騒ぎを覚えていた。
(黎よ…。忘れるな。お前の宿命を。英雄と呼ばれる事に慣れてはならぬ。人間は所詮神様の下僕…。英雄にはなれぬのだ。甘い言葉に耳を少しでも貸せば、隙が出来る。お前は日本人、殺し屋…。隙を作ってはならぬのだ。黎よ、もっともっと己を知るのだ。)

突き進む事も、憎む事も、私にとっては同じ。迷うなどあるわけがない。この時はそう思っていた。しかし、やっぱり私は甘い夢に浸っていたのかもしれない。気づきもしなかった。『今』こそが幸せであって、その幸せにはドス黒く暗い影が潜んでいるという事を。

『凛』王朝第四話〜罠の中の出逢い〜に続く


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