置き去りの虚影。-1
渡した写真には、思惑があった。
本当の理由は ある種の試みと 嫌いになる為の大義名分を作る事。
「君がくれた誠意の分だけ、僕は敬意を支払わなければならない」
そう告げて渡す、心から喜ぶ、否、悦ぶ様には、心底、軽蔑の眼差しを注ぐ。
それが笑顔1つで済むものならば あたしはあたし自身の身1つさえも毛嫌いはする。
価値などは 存在につけるべきではない。
だからか、あのまとわりつく視線―‥吐気がする。
肉欲に飢えた獣を、自らを餌にして飼い馴らす、これはただの策略であって。
餌になるつもりなんてないけれど、代わりに?残り香?程度の残影に少しだけ香料を加えてやったのだ。
さぁ、諸君。
汝等はその写真を何に使うおつもりだろうか?
例えばそれを ずたずたに引き裂いたり 目を刳り貫いたり、憎しみの発散に?
例えばどろどろに汚し、反射による虚影の姿に夢を見る?
その相手の用途は、何と無く知っている故に汚れた視線に心底吐気がするのだ。
しかし、虚影がぼろぼろに汚されていく様に、あたしは確かに諦めに似た安堵を覚えている。
―この身が大好きが所以、大嫌いで
―この身が不出来が所以、愛おしく
―大切にしたい、けれど、ぐちゃぐちゃにしてしまいたい。
あたしは、歩く。
過去に、その場に、過ぎた時間の狭間に。
水面に、鏡の中に、写真に、人々の記憶に。
取り残されていくのは、紛れもなく本物が与えた残像達。
君は、夢を見続ける。
与えた残像達に。
あたしはあたしの目的で、君を利用する。
害がない、と声を洩らす彼は真意すら気付かずに、未だ淡い夢を見ていた。
―‥本当に愛してくれるなら、傷つけまいとせず、いっそ、殺してほしい。
あたしには 君を殺す事はできず
君には、あたしを殺す事ができない。
それは不必要な だから、写真を託したの。
あたし自身と君を もっと嫌いになれたなら、腕ごと斬り落とせるでしょう。
―その想いは、決して叶う事はないのだから。