止まらない季節は全てを受け入れる。-1
早朝に悲鳴が聞こえた。
僕は眠い目を擦りながら居間へ足を運ぶ。
涙を流す家族。
突然の状況を飲み込めないまま、僕は彼らの視線の先を眺めた。
もう動かない猫。
とうとう天国へ旅立ってしまったんだ。
父は一生懸命、頭を撫でながら、起きろ!起きろ!と叫ぶ。
息を止めた冷たくなりつつあるその命の最期を僕は受け入れられなかった。
18年間一緒に大きくなった、いわば兄弟のような猫。
空気のような感覚でいつもそばにいてくれた。
それなのに。
突然の別れ。
彼女は自分の死期を悟っていたと父は言う。
数日前に家から出ようともがいていた。
動物はひっそりと消えていく。
死に場所を探す力があるうちに。
18年間の思い出がくるくると廻る。
一緒に寝てくれたあのぬくもりをもう一度感じたい。
名前を呼ぶといつもそばに来てくれた。
美味しそうに食べていたあの魚ももう。
涙が止まらない。
止まらなくていいんだ。
今日はこの兄弟のために泣いてあげたい。
それがはなむけになるのなら。
家族を失った悲しみに包まれた。
体の一部を失ったような喪失感。
ぽっかり埋まらない穴があいてしまったようだ。
季節は止まらないのに。
くるくると流れてはまた春がやってくるのに。
兄弟の時間はこの秋に止まってしまったままなんだ。
流れる時の中で生きる者ともう流れない時の中で思い出になっていく者。
両者には超えられない隔たりがあった。
悲しみも別れも涙も…
季節は全てを受け入れながら右往左往。
僕はそれを受け入れなくないから今にしがみつく。
今なんてないのに。
ただただ進まない時間の中で思い出だけが繰り返される。
あいつは春が好きだった。
縁側で日向ぼっこ。
大あくびしながら毛繕い。
ゆったりと流れる春の日和りはあいつを思いっきり愛しているようだった。
それでも季節は流れゆく。
別れも喜びも受け入れない限り、先には進めない。
変わらないものなんて何もないから。