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13階段
【ホラー その他小説】

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13階段-1

「長月、なぜ西洋では『13』という数字が不吉なのか知ってるか?」

 終業のチャイムが鳴ったのは何時間前のことだったか。教室から外を見ようとしても、窓ガラスは出来の悪い鏡の様に教室内の風景を映し出してしまう。
 長月と呼ばれた少年は、自分と同じ色の学ランを着た生徒を見る。そしてやる気の無さそうな様子で、先程の質問に答えた。
「あれだろ? キリストと12使徒、つまりキリストを裏切ったユダを合わせて13人になるからだろ? キリストがゴルゴタの丘で処刑されたのも、13日の金曜日だっていうし」
 質問した生徒は満足そうに頷く。
「その通り。タロットで13は『DEATH』すなわち死神であったり、絞首刑を執行する時に死刑囚が上る階段は13段だったりする」

 長月は思う。そんな話をなぜ名前が十三(じゅうぞう)である自分にするのかと。そんなに俺の名前が不吉だと言いたいのか?
「だから西洋のホテルや駐車場では『13』の数字は使われない。まあ、最近になってそういう風潮は薄れてきたが……」
 長月からすると海外に行ったこともないし、これから海外に行く予定もない。正直どうでもいいといった様子である。
「おい、アキラ。俺は別にキリスト教じゃないから、『13』が不吉だとも思わないぞ」
 それが長月の率直な意見であった。長月はまた教室の窓を見て、窓ガラスの中の自分と目を合わせた。外の景色を見ようとしているのだが、何故か焦点が自らの鏡像に合ってしまう。

 そんな様子の長月に気付いていないのか教卓に座る男子――河原アキラは、相も変わらず『13』に関する逸話を話し続けている。よくもまあ、ただの数字の話をそこまでできるものだ。

「それで結局何が言いたいんだ?」
 アキラの話は放っておくといつまで続くかわからないと、長月は適当な所で口を挟んだ。
 するとアキラはチラッと時計を振り返り、不気味な笑みを見せた。

 まずいな、長月はそう思う。なぜならアキラがこういう笑みを浮かべる時は、とんでもないことを考えている時と相場が決まっているからだ。
 この前は栄養ドリンクと怪しげな漢方薬を混ぜた物を長月に飲ませようとし、さらに前は『バレずにカンニングをする方法』について熱く2時間も語りだした。
 世の中には2種類のトラブルメイカーがいる。意図せずにトラブルを巻き起こす奴と、意図的にトラブルを起こす奴だ。河原アキラは間違いなく後者に当たるだろう。
 まあ、そのトラブルに巻き込まれるのが専ら長月なわけだが。

「俺がこんな時間まで学校に残る理由は一つしかないさ」
 アキラはそう言いながら親指で背後の時計を指差す。時計の針は8時48分を指していた。
「水ノ宮高校七不思議の一つ、13階段。確かめに行こうぜ」
 アキラは立ち上がり廊下へと出ていった。長月は慌てて後を追う。



 廊下は既に蛍光灯が消されていて、灯りといえば緑色の非常口を示す光と、そして窓から差し込むやわらかい月明かりだけであった。
 そんな暗い廊下をアキラは普段通り歩いていく。13階段の噂がある、屋上に続く階段へと。
「水ノ宮高校七不思議の一つ、13階段。
 屋上へ続く階段は普段は12段。しかし夜9時丁度になぜか13段になるという」
「知ってるよ、お前に何度も聞かされたからな。そして13段目を上ってしまった奴は不幸になるんだろ?」
 長月はアキラの背中に懸命に付いていく。薄暗い廊下に溶けていってしまいそうな背中に。
「本当に十三段になるのか興味ないか? もしあったら本当に不幸になるのか?」
「まあ少しは面白そうだけど」
 そう言う長月の口ぶりは、いかにも興味無さげであった。


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