13階段-2
そして二人は13階段の前に立った。
昼間見た時は普通の階段と変わりはないのだが、今は何か不気味な雰囲気だ。
薄暗いせいか階段の輪郭がぼんやりしていて、どうも何段あるかはっきりしない。階段や壁には黒い染みがこびりつき、それが人の顔や手形のように見えてしまう。
そして見上げた先にある古ぼけた扉。頭では屋上に通じると分かっているのだが……何か異世界に通じているような、そんな予感がする。
それらはただの想像にすぎないと長月にも分かっているのだが、いいしれぬ不安が彼の鼓動を加速させていくのだった。
「9時ジャスト! いくぞ」
腕時計を見たアキラは、そう言って階段を上っていく。それを見て長月も階段を上り始めた。
1、2、3、4、5、6……。
アキラは長月より一足先に階段を上りきった。そして口元を醜く歪め、不自然なほどに黄色い歯をみせている。
「13段だ! 噂は本当にだったんだ!」
アキラは興奮した様子で言った。目を大きく見開きこちらを凝視してくる。
長月はそんなアキラを見て、背筋に冷たい物が走った。その顔は付き合いの長い級友の、今まで見たどの表情にも当てはまらないほど不気味だったのだ。
長月はアキラから何とか目を反らし、視界を自分の足元に向けた。そして長月も階段の上に辿り着くのだが……。
「8、9、10、11、12。12段だぞ?」
「はぁ? お前しっかり数えたのか?」
「間違いなく数えた……と思う」
「思うってなんだよ?」
長月は右手で頭を掻く。おぼろ気な月明かりでできた影が、階段の下の方で大きく揺れた。
「途中でお前、話しかけてきただろ? そこで、もしかしたら数え間違えたかもしれない。つうか、お前こそ数え間違えたんじゃないか?」
「俺が? そんなわけないだろ」
自信満々でアキラは言った。
「じゃあ、元から13段だったとか」
「いや、昼に確かめた時は間違いなく12段だった」「現実的に考えればアキラ、お前が数え間違えたことになるぞ」
アキラは腕を組み、何か考えているようだ。
「じゃあ今度は下りながら、同時に並んで数えるぞ」
「ああ、そうだな」
と、結局二人でもう一度数えることにしたのだった。
そして二人は屋上に続く扉に背を向ける。
「長月、いくぞ」
長月はコクリと頷き、階段の下に広がる闇を見つめた。
「1、2、3」
薄暗い校舎に二人の声が反響する。ヒンヤリとした空気が不気味にうごめき、その震動がまるで地の底まで伝わっていくようだ。
「4、5、6」
ふと二人の足元の闇が濃くなった。雲が月という光源を遮ったのだろうか?
「7、8、9」
それでも二人はペースを変えずに下りていく。上履きが声にあわせ、乾いた音を奏でる。
「10、11、12」
と、そこで長月は階段の下まで辿り着いた。
結局、数えた段数は12段。13階段の噂は所詮噂すぎないということか。長月は安堵の溜め息を洩らした。
「13!」
突然、隣からアキラの声と上履きが廊下を叩く音が聞こえた。
驚いた長月はアキラの方を向く。しかし、なぜかそこに級友の姿は無かった。