空の境界線。-1
見上げると
真っ青なキャンバスに
白く引かれた境界線。
いいなぁ。
雲は流れてゆけるから。
線を跨いでどこまでも。
こだわりや価値観やルールに縛られないから。
僕は羨ましそうに、この蒼いキャンバスを見上げた。
きれいに二つに分ける境界線しばらく眺めていた。
僕の目の前に引かれた境界線。
僕は飛び越えたことがあるだろうか？
四角四面に引かれた線。
その無数の線が段々と僕の足場を狭くしていく。
閉所恐怖症な僕の足場はグラグラと揺れはじめた。
それよりももっと恐ろしいのは
それに馴染んでいく僕だ。
何の疑問も感じずに、線の通りに僕は歩く。
線に沿って歩かなくては不安で立ち止まってしまう。
もう一度空を眺める。
吸い込まれてしまいそうな大空。
一点の迷いなき快晴。
線というナビゲーションに従ってからそんな迷いない気持ちになれたことがあっただろうか？
おそらくないだろう。
足を踏み外し体勢を崩した。
線を跨ぎそうになって慌ててバランスを取る。
まるでその線以外に道がないように感じた。
コンクリートを闊歩するアリの大群。
彼らにも見えないラインがあるようだった。
隊列を乱さず進む姿が、なぜだろう。僕の今とシンクロした。
僕はちっぽけなアリだ。
ため息混じりの息を吐き出してもう一度。
もう一度空を見上げた。
さっきまできれいに伸びていた空の境界線が、崩れていく。
そこはボーダレスな世界へと戻るように。
「線が消えていく…」
僕の中で何かが弾けた。
それが原動力になった。
ちっぽけなきっかけだけど、僕に勇気をくれた。
躊躇するな。
自分に言い聞かす。
僕はまだ踏み入れたことのないその線のない地面へと恐る恐る足を踏み出した。