『 Message 』-1
妻の『死』を知ったのは、72時間の勤務を終え本部ビルに戻った時だった。
大規模な暴動の制圧、要人の警護、指名手配犯の追跡、仕事の案件は山積みなのに、都市部の警官は慢性的に不足している。
今も、昨夜起こった通信センター爆破事件の現場から報告に戻った直後だった。
本部のエントランスホールで私に駆け寄って来たのは、同僚のドナヒューだった。
ぶつかるような勢いで肩を掴むと、振り向かせズンズンと入口の方に押し出して行く。
「よく聞けよタチバナ。エミリーが、奥さんが、事故にあった。車道域に飛び出した見ず知らずの子供を助けようとして、不正改造車にはねられたんだ。現場で死亡が確認されたらしい……」
私は呆気にとられて振り返り、まじまじとドナヒューの顔をみた。
「バカな!エミリーが死ぬわけがない。車にはねられたくらいで。彼女は……」
放心状態の私を車に押し込みながらドナヒューが言った。
「法医技師から自殺の可能性があるという報告も来ているんだ……」
エアカーは車道域を凄まじい速さで走っていた。
行先を国際開発機構―ホスピタル―に設定すると、ハンドルを放し、シートに身を埋めぼんやりと外を眺めた。
エミリーが死んだ?
自殺?
子供を助けようとしたのは理解できる。それが原則だからだ。何百年経とうとも、それは我々の中に息づいている。
しかし自殺とは……
自殺とはいったい…。
検査台の上に横たえられた妻の身体は、不思議なほど頼りなく見えた。
頭部の損傷は思いの外小さく、こんな傷が妻の命を奪ったなんて到底信じられなかった。
「奥さんをはねた車は不正改造車だった。グリルを硬度の高い合金で固め、角や羽を付けていたんだ。頭の軽いガキの車さ。子供は助かったんだが、奥さんは頭と胸をやられた。胸が致命的だったな」
法医技師は慰めるように私の肩をポンポンと叩いた。
「そしてこれが奥さんの自殺の証拠さ」
差し出された掌には、小さなメモリーチップが乗っていた。
「奥さんは電子頭脳の70%を損傷した。メインのバッテリーユニットは瞬時に破壊され、事故直後は補助バッテリーでメモリーの書き替えをしていたにすぎない」
法医技師は傍らのモニターを指差した。そこには妻から取り出したライフレコーダのデータが急激な右肩下がりの曲線を示している。