霞台東高校、恋愛研究部。No.0-1
―春。
こんなにあたたかな日射しに包まれながらも、
ボクは桜の舞うこの道をトボトボと歩いている。
今日は高校の入学式。
勉強が出来るわけでも出来ないわけでもない、
いわゆる『普通』のボクが受験したこの学校は、
これまた何の特徴のないごく普通の公立高校、霞台東高校である。
受験日に限って予想外に高得点を取ってしまったボクに対し、
友達や学校・塾の先生達は口々に、
「こんなことならもっと偏差値の高いとこを受けておけば良かったなぁ」
と、慰めとも軽い侮蔑ともとれる言葉を掛けてきたが、
大きなお世話だと思うのが正直なところであった。
「当日の出来具合なんてそれこそ神のみぞ知ることだし、
それに今更終わったことをあぁだこうだ言っても仕方ないじゃないか…」
受験校のことを誰かに言われる度にボクは心の中でそう呟いていたが、
実際には「そーだよね」と笑顔で応え、余計なことは一切口にしなかった。
余計なこと…。そう、余計なことなのだ。
他人の言うことに反論したり口を出したりするなんてことは。
例え何をボクが言われたって、
じっと我慢して言い返さなければ相手は気を悪くすることはない。
そして、それは結局のところ自己防衛に繋がるのだ。
ボクのような身体も心も存在さえもちっぽけな人間は、
なるべく波風を立てないようして、何事もスルリと切り抜けて行けばいい。
それがボクのような『普通』な奴の賢い生き方であり、同時に義務でもある。
この生き方を変えるつもりなど、ボクには毛頭ない。
そう、今日から始まる、新しくも代わり映えのしない日常の中でも。
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「…ねぇ、鳳君だったよね…?部活とかってもう決めた?」
入学式を終え、体育館から戻り自分の席で本を読んでいたボクに、
右隣の女の子が話しかけて来た。
本を読んでる所を邪魔されるのはあまり好きじゃないんだけど、
入学早々、隣の人を敵に回すわけにはいかない。
笑顔、笑顔。
「ううん、まだ決めてないけど」
「入りたい部活とかないの?」
「…うん、特にはないかな。…えっと」
「藍原」
「…藍原さんはもう決まってるの?」
ボクがそう訪ねると、藍原は待ってましたとばかりに目を輝かせた。
「私はね、恋愛研究会に入ろうと思ってるの」
恋愛研究部?
ボクは入学式の時にもらった部活動紹介の紙に目を落とす。
部活動名 恋愛研究部
活動内容 恋愛について調査・実験等を行い、それをレポートを行う。
顧問 馬場 俊子
部長 立花 棗
部員 風間 文香
森 絵梨奈
備考 今年度、5人以上の入部が無い場合は廃部とする。