■LOVE PHANTOM■二章■-3
「だけど、お前は死んでも長い間生まれ変わるということをしなかった。理由は分からないがな。お前を愛した奴の血族は、お前が生まれ変わったと考え、世界中を捜し回ったそうだ。自分に流れる血液がお前を探せと命令したんだろうな・・今の俺のように。」
「それで?」
叶は曇り始めた空を見上げた。今にも泣き出しそうな灰色の空が、叶には心地よく思えた。
「もう俺で何代目かは忘れたけど・・俺もその記憶されその使命に基づいてお前を探し・・そして見つけた。」
「私があなたのご先祖様に愛されてた・・。」
靜里は、叶を見つめたまま視線をそらそうとはしなかった。
「俺はお前を愛して、お前を守る。」
叶は空の方を向いたままで言った。
そしてその後で、ぴしゃりと何やら冷たいものが叶の鼻先を濡らした。
雨である。
彼の鼻先からきれいな滴が流れ落ちると、今度はそれを消すように激しい雨が、地上へと叩きつけるようにして降ってきた。それでも叶は上を向いたまま動こうとはしない。雨は叶の黒髪を濡らし、その先からはだらだらと固まった滴が線をなして、白い肌の上を走った。
そんな叶を見て靜里は言った。
「愛は記憶や命令で存在するものじゃないと思う。あなたの意志で愛するなら、それはきっと愛だけど・・でも体の中にある他の誰かの記憶で人を愛するというのなら、それはきっと嘘よ。」
それを聞くと叶の視線がゆっくりと横へ向いた。
彼の瞳に映ったのは、泣いているかも分からぬほど濡れている彼女の姿だった。
「でもあなたの言うことは信じる。私を探したこと、あなたのご先祖様のこと・・信じる。」
靜里は笑った。
「明日、もう一度会おう。今日はもう帰るよ。」
そう言うと叶は、くるりと後ろを向き歩きだした。靜里の呼び止める声はしなかった。だがその背には、靜里の視線が痛いほど感じる。しかしこのとき叶は、妙な不快感に襲われていた。理由は分からない、だが何故だろう水たまりに映った自分の顔は今まで見たこともないような顔付きだった。どこか悲しげで、けどそれを言葉で表すには、今の彼にはあまりにも難しかった。
雨はより激しさを増し、耳には雨があたる音しか聞こえてはこなかった。
「お客様?どうかなされましたか。」
店員の言葉で叶は、一瞬驚きながら我に返った。
しかしそれでも胸の中には妙なしこりが残ってい。叶は一度、声をかけてきた店員をにらむような目付きで見ると、すぐにガラスへと視線を落とした。ちょうどその時である、一つの指輪が彼の目を引いた。銀の指輪である。周りの指輪は細かく、派手に演出されたものばかりであったが、これだけはそうではなかった。ごく普通の指輪の形に、何やら小さく刻まれた文字がある。叶はガラス張りへ顔を近づけて目をこらした。
「Nearby Lover。」
銀の指輪にはそう刻まれていた。
「はい、これはですね・・。」
「黙ってろ。」
「はい。」
説明しようとしたのだろう、店員は叶の横へと並腰をかがめている彼に声をかけた。が、しかし、叶は店員をきつく睨むとすぐにその後で独り言のように言った。
「決めた、これだ。これが一番似合う。」
叶は頭を上げた。
「おい、これをくれ。」