御食事の時間-1
ナオミはつい先日、俺の妻になった。
妻≠ニはいえ口約束のようなもので、式を挙げてもいなければ籍を入れてさえいない。そのことに大した意味はない。
意味があるとすれば、俺もナオミも?夫婦?というシチュエーションを利用した?ままごと?のようなものがしたかった、
というところだろうか。それをナオミに伝えたら?オトナの?でしょとため息を吐かれたのは言うまでもない。
「―――いやァ、絶景かな。絶景かな」
ダイニングのテーブルに肘をついて俺はヒュゥ、と口笛を吹いた。目尻がさがっているのが自覚できる。俺の視線の先には妻ナオミの姿。とんとん、と包丁で野菜を刻む音がする。それが、ぎこちない。決して料理初心者ではない彼女の手つきがそうなるのには、理由があった。
裸エプロン¢ュにそう呼ばれる姿を、妻に強要していると言えば女性は軽蔑するだろうか。しかし男性諸君ならわかってくれるに違いない。ナオミもはじめは首を横に振った。フリルの付いた白いまっさらな彼女好みのエプロンをプレゼントされて綻んでいた彼女の頬が引きつったのを俺は見逃さなかった。しかし、そこで折れては男が廃るというものだろう、男性諸君。
己の妻をあまり褒め称えるのも日本男児として恥ずかしいものだが、ナオミは男心を鷲掴みにするような外見をしていた。
艶やかなセミロングの栗色の髪。色白の、もっちりとした質感の肌。ゆたかな乳房と尻をもち肉感的であるが首筋や腹、足首はキュッと引き締まっている。あどけなさをふくんだ黒目勝ちの瞳と、ふっくらとした頬。ぽってりとした唇は、色っぽい。
そして、声はあまく、高く、若干舌足らずなところがまた、良い。
そんなナオミが、むちむちとした白い身体を薄い布地のエプロン一枚きりで、目の前に立っている。それを?絶景?と呼ばずに何と呼ぼうか。腰のあたりの蝶々結びは、俺がやった。わざと、その餅肌に食い込むくらいに、キツく。
「……あんまりみないで―――、イタっ!」
18歳の幼妻は少しだけ振り返る。色白の頬が桃色に染まっている。手元が狂ったのか、包丁から反射的に手を放して浅い切り傷のできた左手のひとさし指を右手が押さえる。うぅ、とナオミは涙声だ。やれやれ、と大袈裟なジェスチャーをして、俺は席を立ち、背後から片腕でナオミを抱き締める。もう片方の手でナオミの怪我したほうの手をとり、血の流れはじめた人差し指を口に含んだ。
「―――アッ。痛い。陽ちゃん……」
かすかに口内に広がる鉄錆の味。どこかミルクのような匂いのするナオミの指を、俺は必要以上に舐めまわした。そして、空いた手はナオミの乳房を布越しに揉む。背の低いナオミ、背後から見下ろせばほんのりと桃色がかった谷間と、主張をはじめて固くなった乳首が布の上からでもはっきりと目に見える。
「…ひゃっ …ァっ、 だめっ ――約束したじゃないっ」
「何のことだ? 覚えてねえなぁ」
俺は充分にその指先を堪能して口から放すと、ナオミの真っ赤になった耳たぶを甘噛みし、人差し指と親指で乳首を捏ねまわしながら笑った。ちなみに約束とは?ごはんが終わるまでは指一本触れない?というものだった。ナオミはいつもよりも甲高く艶っぽい声で鳴く。その声を殺したくてか、俺がついさっきまで舐めていた、湿った人差し指を口に咥えた。