わたしと幽霊 -花-(後)-3
『……………』
少年は声を無視し、次は人込みをじろじろと眺め始めた。
「キミさ、ずっと守ってるんでしょ?事故に巻き込まれて悲しい思いをする人が増えないように……
誰も、キミと同じ思いをしないように」
『………………』
なおも少年は無視を続け、昏い視線を人混みに向けている。
「和輝さん。ずっと病室で待ってるよ。彩香さん…」
――その二つの名前を聞いた瞬間。
ぴくっ…と、少年の瞳が揺れた。
きしきし…と、ぎこちない動きで横に腰掛けるあたしの顔を見上げる。
「喧嘩別れしちゃったんだよね。そしてここでキミは躰と心が離れて…」
11年間、ずっと。
「彩香さんが戻ってくるのを待ってたんでしょ?彼女はもぅとっくに戻ってるよ。彼女もキミを待ってる」
だから――
「だから、行こう。あなたの眠る八代病院に」
『…戻ってくるわけないじゃん…』
最初に会ってから初めて…
言葉をあたしに向けた彼。
高谷さんは、少し離れた所であたし達の様子を見てる。
「戻ってきてたよ。さっき、会ってきた」
あたしはゆっくりと、彼に返す。
『嘘ばっかり』
「嘘じゃないって」
ああ、きっと彼は――
死んだ間際に抱いた『別れたくない。会いたい』という想いが長すぎたんだ…
それがあまりにも長すぎて。
だから、あたしの言葉をなかなか受け入れようとしてくれないんだね…
『嫌いって言ってた。あんたなんか知らないって言ってた。だから来ないよ』
「嫌いな人に会いに…いつも病院に来ると思う?」
『だって僕も嫌いだもん』
違う……
意地を張らないで。
あたしの言葉を聞いて。
彼女はね…
彩香さんは……
「嫌いなんて言わないで。だって彩香さんはキミの事、好きなんだよ?」
あたしは――彼の目を真直ぐに覗き込んで、言った。
『だ、だって…僕は嫌いだ』
俯きがちに目を逸らされる。
「嫌いじゃないでしょ」
あたしは根気よく、彼に繰り返す。
お願い、伝わって…
彩香さんの気持ち――…
「本当は好きなんでしょ?」
あたしは繰り返す。
『うるさい!嫌いだって言ってるだろ!あっちへ行け!』
彼は目に涙を浮かべながら、大きい声で叫んだ。
『あいつも嫌いだ!お前も嫌いだ!お前なんて助けるんじゃなかった!』
泣きそうな顔で癇癪を起こし始める。
『死んじゃえばいいんだ!彩香も、お前も!』
シンジャエバイインダ。
「―――…!」