『凛』王朝〜中国と日本〜-1
『凛』王朝第二話
初めて人を殺したのは五つの時だ。別に特に感情など湧きもしなかった。ただ、思った。人はこんなに簡単に死ぬんだ、とーーーー。
〜中国と日本〜
『黎たちは、出立したか。』
王が、女官に林檎を食べさせてもらいながら、長官に聞く。
『はい。すぐに出立したようで。』
『そうか。では、あの計画を実行しよう。』
『恐れながら申し上げます、王。本当に、実行するおつもりで…?』
長官は、少し戸惑いながら、聞く。
『…なぜだ?』
『…彼らは日本人ながら、我々によく仕えてくれました。彼らのおかげで国の秩序も保たれております。日本人狩りだって彼らがいなければ…』
『日本人なら、もう殺し尽くした。村も、殆ど残っていない。これ以上殺しても、奴隷が少なくなるだけの事。』
『しかし、王…。これではあまりにも…。』
王はイスを立ち上がり、窓の方へ歩み寄る。外には、緑のない渇いた大地が広がっている。
『あやつらは強くなりすぎた。私が予想しない所まで…。これ以上強くなっては、私らの力ではもう止める事さえ出来ないだろう…。だから、今やるのだ。今しかない。』
王は振り向き、長官を見る。その目を真っ直ぐに。
『わかれ、長官。こんな事は言いたくないが、反対するつもりならクビにしたっていいんだぞ?』
ビクッと、長官の肩が揺れる。長官は幼い頃から、王に仕えている。今更民間の中で生きてゆく事は難しいため、ここから出されるわけにはいかなかった。
『はい、王…。従います…。』
『わかれば良い。すぐに実行にうつせ。』
『かしこまりました。』
その頃、黎たちはすでに鹿島に着いていた。村の目の前にある大木に身を潜め、様子を伺う。もうすぐ日暮れ…という所だったが、人々はせわしなく動き回っていた。
『何分でいく?』
遼が黎に聞く。
『3分くらいか?』
今度は剛が口を挟む。
『いや…、1分だ。』
黎は、予想外の言葉を口にした。
『1分?いくらなんでもそれは無理だ!』
少し呆れかえるかのようにして遼は抗議する。
『1分だ。』
しかし、黎は効かない。
『…わかった。やってみようぜ。』
猛は頷く。他の3人も渋々頷いた。どうせ、やるしかないのだからーーー。
『よし、じゃぁ行くか。好きに暴れろよ、お前等。』
『らじゃっ!』
5人は大木から飛び立ち、村へと降り立つ。人々の叫ぶ声。血塗られてゆく平和な村。5歳の時から変わらない、景色ーーー。
次々と逃げる人を切り捨てながら、黎はあの日を思い返していた。
〜12年前〜
『黎、ほら早く支度して。』
黎の母親は、色々と荷造りをしながら、黎に服を着せる。小さな黎は、まだよく何が何だかわからなかった。
当時日本はすでに植民地。日本にはもう食べるものがなく、あるものは全て中国に剥ぎ取られていたため、日本人の多くは仕方なくも中国に移っていった。黎の母親も、そこそこ粘ったが、さすがに力つきたのだろう。父親は、かつての、日本を守る戦争で戦死していた。母親には、頼る者がなかったのだ。
『ねえ、お母さん。どこ行くの?』
ごった返す駅の構内を早々と歩く母親に手を引かれながら、黎はそう聞いた。
『中国よ。そこに行けば、今よりもっと楽に生きれるの。黎だって、今より好きなものいっぱい食べれるし、好きな服も着れるわ。』
『本当に?』
『ええ、本当。だから、ちゃんとついてきて。』
そう言って黎を引っ張る母親の手の力は、物凄く強かった。まるで、何が何でも放すまい、いや…、逃がすまい、としているように。