月夜-1
三年は長いよ。
さすがに三年は軽くないよ。
今も思い出ばかりが頭をよぎる。悲しい事もたくさんあったのに、楽しいばっかりだったなんて嘘でも言えないような恋だったのに、
思い出はいつも綺麗にしか思い出せない。
きっとこれは神様がくれたプレゼントだね。
その日の月は糸見たいに細くて、少しの衝撃で、本当に折れてしまいそうだった。
それでいて背後から雲にどんどん侵略されていく様が、この世の何よりも惨めに思えた。
別れの予感なんてとっくにしてた。三年だよ?
私は何も気づかなかったってふりしたのは、最後のわがまま。
必死で涙をこらえたのは、とっくに通じ合ってなかった私達を、最後に別れという言葉で結んでくれた事への感謝。
ブランコにのりながら呟く
『ねぇ月見て。』
『…うん。細いね。』
よかった。まだ同じものを見れている。今ならまだ笑ってばいばいできる。
体全てで、細胞全部を総動員して、彼を吸い込もうとしてるのが自分でもよくわかる、ため息ひとつ聞きもらすまいと、彼のぬくもりまで漂ってきそうになるほどに。
まだ泣かないで。
『俺ね。由衣がOKしてくれた時ホントにうれかったんだょ?』
『ぅん。』
まだ泣かないで。
もう少し。
『由衣と付き合えて本当に楽しかった。』
『うん。あたしも』
『嘘じゃないよ。ほんとに楽しかった』
まだ泣かないで。
『うん。あたしも』
まだ泣かないで
もう少しだけ目に焼き付けて起きたいから。
もう少し。
もう少し。
『うん。
俺がフッといて言うのもなんだけど、また外で会ったら声ぐらいかけろよな。』
『うん。そっちこそ』まだ。もう少し。
『うん。じゃあな』
もう少し。
『うん。ばいばい。』
走りさっていく彼の背中をみて
自分にそっと粒やいた。『もうぃいよ。がんばったね』
今まで塞き止められていた涙腺から出てくるそれは、もっとありふれたものだと思っていた。泣きじゃくるとか。壊れるだとか。そういうたぐいの。
それはとても穏やかな涙だった
。ゆっくりゆっくり瞼に溜り、睫毛を濡らし、頬を伝っていった。
うつむいて泣くと
瞳に溜りまつげだけをつたい、地面に染みをつけた。
あぁそうぃゃこの世には重力があったんだ。
こんな時なのにと涙を流しながらふとそんな事を思った。
三年は軽くないや。
さすがに三年は重いよ。
まだまだ月は折れそうで
とても私を慰めてくれそうにはなぃ。
曇に覆われそうになっている月を見て
空に向かってゆっくり、ゆっくり手を伸ばした、そんな真冬の日。