消えなかった思い-2
『攸くんじゃん、おひさしぶり☆』
こいつの名前は由衣…覚えていないわけなかった。俺が6年前に付き合ってた女の子。あの時はまだお互い14才。
『由衣じゃん、ホント久しぶり。』
『なぁんだ彼女さんと一緒??』
軽いノリで聞いてくる由衣。
『…。』
俺はその場に立ちすくんだ。何も言えなかったんだ。佳菜は、俺の大切な彼女。でも、それは由衣には認めたくない……。
この感情は何なんだろう?
俺は…由衣にいつか偶然出会えればイイってずっと思ってた。何年間も忘れられず、心のどこかで君のこと思い続けていた。もう6年も前だけど俺はまだ後悔がある…。ちゃんと自分の気持ち伝えきれなかったことに。
今俺はどしゃぶりの雨の中、由衣の知らない女を連れて相合い傘で歩いている。誰がどう見ても付き合ってる。でも…由衣にだけは他の女といるとこ、見られたくなかった…。俺の一番は由衣なんだ。今隣にいる女の子じゃないんだ。
『わたし、今日は先行くね』
沈黙を破ったのは佳菜だった。佳菜は洞察力が鋭い。もうこの状況を察したみたいだった。
『…。』
佳菜は傘を俺に押し付け、濡れながら雨の中をさっさと歩いて行く。…佳菜に何か言わなきゃ…
『ちょっと待って!!』
佳菜が振り向いた。由衣も俺を見ている。俺は佳菜に言わなきゃいけない言葉がある。佳菜が待っている言葉が…。
でも口から出てきたのはそんなんじゃなかった。
『佳菜ごめん。由衣、俺、おまえに言わなきゃいけないことがある…』
『うん、私が一番じゃないのはわかってたかよ…』
佳菜がちいさな声でそうつぶやいたような気がした…。佳菜はそのまま歩いていってしまった。俺は佳菜に何も言ってやれなかった…。
残されたのは俺と由衣。由衣はしばらく困ったように俺を見て、ようやく口を開いた。
『何?』
俺は自分の口で、ちゃんと伝えたかった。メールっていうモノに頼ってしまったばっかりに、伝えきれなかった気持ち…。ウヤムヤになってしまった俺達の関係。
『俺は由衣のことが大好き、今でも、忘れられないんだ。』
長い沈黙だった。でも次の由衣の言葉はわかっていた。
『ごめんね…攸とは友達としていたいかも…。』
初めてみる由衣の申し訳なさそうな顔。考えて見れば今日まで俺は由衣の笑った顔しか見たことがなかった。ケンカの時、別れた時、俺達はそうゆう話は全てメールですませてきたから。
『うん、わかってたから。』
大丈夫。別に悲しくなんかない。無理なのは知っていた。そんなこと、ずっと前からわかっていた。ただ自分の口から気持ち伝えないままでは俺の中では終われなかったんだ…。
『彼女さんが…攸のこと待ってるよ。行って、あげないの?』
この言葉、由衣の最後の優しさだったんだね…。