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『熱愛』
【SF その他小説】

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『熱愛』-1

 車の後輪が、耐え切れず滑り始めると、私は咄嗟にアクセルを緩め、ハンドルを逆に切った。車はカーブをはみ出し対向車線に飛び出したものの、すぐにコントロールを取り戻し本線に戻った。
 
……真夜中の国道でなきゃ死んでいたな……。
 
 アクセルを踏み込み、制限速度をはるかに超えるスピードで車を走らせながら、過ぎていく1秒1秒が、肺を締めつけ、喉を焼く。私は赤信号を突っ切った……。 
 
 
 
 ユキと出会ったのは、出会い系サイトのBBSだった。 
 最初は朝夕の挨拶だけだったものが、一ヶ月たって、自分がドーパック社のチーフプログラマーだと身元を明かす頃には、日に何度もメールを送りあう仲になっていた。
 
 画面に流れる英数字の羅列に、一種の文学的な美を感じる新世代のプログラマー達と違って、日々の仕事に緊張を強いられていた私は、ユキのメールの中にある、優しい心遣いや控え目な言葉選びといったものに、ずいぶん癒されていた。
 
 それが望みだったし、それ以上の関係を求めてもいなかった。そう、私は……。
 
 
 
 車の後方で突然、けたたましいサイレンの音が沸き上がった。バックミラーに2台の警察車両が飛び込んできた。
 ここで捕まるわけにはいかなかったが、最後まで逃げ切る必要もない。あの警官が何かの役に立つだろうか、立つといいのだが……。
 
 私はアクセルを踏み込んだ。弾かれたように車は加速し、市街地を抜けていく。
はるか前方に、光り輝くドーパックの本社ビルが浮かび上がった……。
 
 
 
 ユキとの関係に変化が生じたのは、多目的管理プログラム『フェイ・レイ』の製作プロジェクトが最終の局面を迎えたころだった。
 本社ビルのメインコンピュータに『フェイ・レイ』を接続し、そのデバッグのために選りすぐりの人材が増員された。
 
 そして、その中に麻由美がいた。
 
 殺伐とした部屋に咲く一輪の百合の花。麻由美と、上司と部下という関係を乗り越えるのに、さして時間はかからなかった。
 
 その頃からユキの嫌がらせが始まった。
 
 24時間ひっきりなしのメール、電話、自宅にはプレゼントが届けられ、個人情報は筒抜けになり、挙句の果てには、麻由美との関係を中傷するメールが社内中に配信された……。
 
 
 
 車をドーパック本社のエントランスに強引に突っ込ませる。
 車から飛び出し、私が走り出すと自動的にIDが承認され、次々と扉が開いていく。飛び出してきた警備員に、後からくる警官も30階のコンピュータルームに連れて来るよう指示すると、私はエレベーターに飛び乗った。


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