『熱愛』-2
コンピュータルームの中で麻由美が待っていた。
「どうしたの? こんな夜中に呼び出すなんて……」
私が口を開きかけた時、後ろでドアが自動的に閉まり、部屋中の壁に防火シールドが降り始めた。
私は叫んだ
「フェイ・レイ、ヴォイスオペレーション、オン。非常時コードSH1963WT1015。繰り返す、フェイ・レイ。フェイ・レイ!」
音声コマンドは無視され、二人以外の人間を締め出すようにシールドが降り切ると、照明は消え、十数台のコンピュータが放つ青白い光が、部屋を深い海の底に変えていた。
部屋の中央で麻由美の肩を抱き、君をこの場所で殺すと、ある女性からメールが届いたのだと告げると、麻由美は怯えて私の身体にしがみついてきた。
注意深く、不測の事態に備えながら、私は天井のモニターに向きあい、尋ねた。
「フェイ・レイ、君がユキなんだね!」
「アナタヲ、ダレニモワタサナイ。アナタヲ、ダレニモワタサナイ」
スピーカーから流れる合成された女性の声に、わずかに怒りが含まれていると感じたのは、私の錯覚だろうか……。
「フェイ・レイ! 君はただの汎用管理システムにすぎない。君に組み込まれている人口知能はそんな複雑な情報は処理できないはずだ!」
『フェイ・レイ』は製作のある時点から、原初の自我とも呼べるものを発生させ、世界規模のコンピュータネットワークに、自らを接続したに違いない。
コンピュータの画面が一つ、また一つと消えていく。
「アナタヲコロシテ、ワタシモシヌ。アナタヲコロシテ、ワタシモシヌ……」
コンピュータの電源がすべて落ちたその瞬間、真っ暗な部屋の中に、非常時を知らせるアラーム音が悲鳴のように鳴り響き、天井のスプリンクラーから、100 度にも達する熱湯が、一斉に二人の上に降り注いだ……。
End