深紅の新薬・人体実験-5
俺は靴を履き、肩を落として大きく溜息をつく。
「今から帰ったら何時になるんだろう。こんな傷だらけで…親になんて説明したらいいんだろう」
まさか、男に犯されましたとは、口が裂けても言えない。
「その心配はないよ」
「え?」
顔を上げて、不思議そうに見上げる俺の背中を押しながらニッコリ微笑む水野さん。
「だって、ほら…ね」
玄関から押し出され、辺りを見回して俺は絶句した…だってそこは、我家の玄関前だったのだ。
「何…コレ…。お隣さん…だったの?!」
「これでわかったかい?僕が君の事を前から知っていても、不思議はないだろう?」
愕然と立ち尽くす俺を後ろからそっと抱きすくめた彼が、『ほら』と眼の前に拳を差し出し、ゆっくりと開く。
真っ赤な粉の詰まったカプセルがふたつ
深紅のカプセルをひとつ。俺は、親指と中指でつまみ上げて電灯に透かして見る。
そして、口に放り込んで、コクッと飲み込む。
そして、手のひらに残ったもうひとつの『脳内ホルモン活性剤』カプセルを唇の間に挟んで、振り返る。
背伸びして、首に腕を回すと、唇を重ね、彼の口腔内にカプセルを押し込んだ。
この新薬、これから先、二人にとって一体どんな効果があるんだろう…
俺も、そして彼も、ドーパミンと言う名の脳内麻薬の虜になり、更なる快感を求めてエスカレートしていく…
そんな俺達の病名は……
―『恋愛依存症』―
その病状は、かなり深刻である。