刃に心《第3話・転校生はちやほやされるもの》-5
「では、最後に…楓ちゃんは俺のことはどうですか?っていうか、ぶっちゃけ付き合って下さい!」
深々と頭を下げて、愛の告白。薄い愛である…
そして会場はヒートアップ…
『ざけんなぁ!司会者ぁ!!』
『裁きをぉ!裏切り者には死による贖罪をぉ!!』
「うるせえ!司会者は俺だ!俺がルールだぁ!文句ある奴はかかってこいやぁ!」
『上等だあ!立ち上がれ虐げられし民衆よ!あの暴君を許すまじぃい!』
と教室の各地で反乱の狼煙が上がり、野郎共が彼方に群がる。
この混乱に乗じて疾風と楓は脱出。教室の片隅で彼方がボコされるのを静かに見守ることにした。
「大変だな」
「「大変だね」」
「大変ね♪」
外野に徹していた武慶、希早紀、ヒロシ、ユウが近付いてくる。
「初めまして、椎名武慶だ。シイタケでいい。後、委員長をしている。でこっちが間宮…」
「ヒロシ」
「ユウ」
「私は佐々希早紀♪よろしくね♪」
それぞれが自己紹介。
「小鳥遊楓だ、よろしく。シイタケに、ヒロシ、ユウ…」
一人ずつ顔を見回しながら楓が名前と一致させていき…
「サキ」
最後の最後に、名前を間違えられ希早紀はゆっくりと倒れ込む。ガーン…という擬音がエコー掛かって聞こえた様な気がした。
「楓…ササキ、サキじゃなくて…サッサ、キサキ…」
区切りをしっかりと発音して疾風が正した。
「そうなのか!す、すまぬ…希早紀…」
希早紀は俯きながら、床を指でなぞっている。
「いいもん…私…慣れてるもん…初対面の人はみんな間違えるんだもん…」
頭から黒い縦線が顔にかかって見える。
「私は…佐々成政の佐々であって、佐々木小次郎の佐々木じゃないもん…」
何とも言えない喩えだが、希早紀は相変わらず落ち込んでいる。
「すまぬ…もう絶対に間違えぬから…」
「希早紀、いいじゃないか。楓もこんなに謝ってるんだし」
「うん…希早紀だからね。よろしく!」
希早紀が暗黒面から帰還。希早紀は慣れてる為か、立ち直りも早かった。
「授業始まるぞ」
武慶がクラス全体に注意した。ゾロゾロとクラスメイトが自分の席に戻っていく。