刃に心《第3話・転校生はちやほやされるもの》-3
「い、いや…だって、こういうのはハッキリさせた方がいいと思って…
そ、それに…疾風もてっきりそう思っているのかと…」
「てっきりじゃない!千夜子先輩、驚いて固まってるじゃないか!」
そう言うと未だ脳内空襲警報発令中で、彫像の様に固まっている千夜子を見た。
「すまぬ…怒っておるのか?」
しゅんとなった楓がうなだれながら謝った。
「…少しだけ。でも、言っちゃったものは仕方ないし、他の奴には言わないでくれな」
ここでようやく千夜子が復活。まだ顔面蒼白だが…
「先輩大丈夫ですか?」
「本当に…本当に…許婚?」
絞り出す様な声。そこに普段の明るさは無かった。
「ええ…俺も昨日知ったんですけど…」
「は、は、疾風は…この小鳥遊と…け、結婚するのか?」
「いや、決めてませんよ。第一、俺達17ですし」
すると、一転して安心した様な笑顔。
「そ、そうか!そうだよな!そんな高校生でな!ヨシッ!」
思わずガッツポーズ。意味が分からず疾風はキョトンとした顔。
「アタシは功刀千夜子。よろしく」
千夜子が手を差し出した。貼り付けられた様な笑み。
それに楓も同じ笑みで返し、互いに握手。二人共、疾風の死角となっている方の口角がピクピクと不自然に動いていた。
「…負けねえからな…」
疾風に聞こえぬ様にボソッと宣戦布告。
「……こちらこそ…よろしくお願いします。功刀殿」
不敵に笑い、笑顔で牽制し合う二人。疾風はよく状況を飲み込めないまま事態の成り行きをただただ見つめていた。
「とにかく、学校行きましょうよ。楓は挨拶とかあるんだし」
「ああ、すまぬ」
「チョコ先輩も一緒に行きましょうよ」
疾風からの思わぬ一言に千夜子の背後で花が咲き乱れた。
「そ、そうか!」
何か結果オーライ♪イエー♪
心の中で漫画の様に、デフォルメされた千夜子が諸手を挙げて万歳。
一方楓の心の中では…
疾風と二人っきり…許婚同士、水入らずをぉ!
…と、これまたデフォルメされた楓がゴゴゴゴ…と燃え盛る火炎を背負っていた。
そして、そんなことなど露程も知らない疾風は呑気に欠伸をしつつ登校。
真に平和である。