刃に心《第3話・転校生はちやほやされるもの》-2
《第3話・転校生はちやほやされるもの》
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疾風が登校する直前の忍足家前。うろうろとする怪しい人影…
「来たのはいいけど…どうしよう…」
茶髪にスレンダーな身体の持ち主。功刀千夜子だった。疾風とラブラブで登校するという夢(?)の為に千夜子は勇気を出して、此所に来たのだ。
「『おはよ、疾風♪一緒に学校行こ♪』」
にこやかな笑顔と共に誰もいない空間に向かって挨拶。
「………」
無論、返事が返ってくる筈は無い。
「ダメだ、ダメだ…アタシのキャラじゃない…」
激しく首を振って、先程の台詞を全力否定。
「『おはよう。学校行こうぜ!』……これもダメだ…」
その後しばらく、あーでもない…こーでもないと悩み続けていると…
───ガチャリ!
「いってきます!」
「あ、疾風…」
「アレ?チョコ先輩?どうしたんですか?」
「お、おはよ…い、い、い、いい…天気だな…」
「そうですね。曇ってますけど、ちょうど気温は良いですね」
「そ、そうだな…あ、あの…アタシと一緒に…」
練習の成果は無く、アドリブになってしまったが、疾風に向かって誘いの一言をかけようとした瞬間…
「行って参ります」
千夜子には聞き慣れない女の声と姿が忍足家から出現…
茫然自失とし、立ち尽くす千夜子。ぱっくりと開かれた口は閉じるのを忘れていた…
「疾風、誰だ?この人は?」
楓の声に冷たさが含まれている。敏感な人間ならその寒気に震えただろう。
「功刀千夜子先輩、俺のクラスメイト」
生憎、鈍感な疾風はそれに気付くことなく受け流す。
「そうなのか。初めまして、小鳥遊楓と申します」
礼儀正しく、だが冷ややかに挨拶をする楓。一方の千夜子はボンヤリとし、その目は焦点があっていない。
「チョコ先輩?」
疾風の呼び掛けでようやくハッとなる。
「は、疾風…こ、コイツは…誰なんだ?」
思いっきり引きつった声。今にも倒れそうな程フラフラとしている。
「小鳥遊楓です」
「名前じゃねえ!そ、その…疾風と…どういったご関係?」
ショックの為、何故か敬語に。その問い掛けに疾風が言うなよ、と目で合図を送った。
コクリと頷く楓。そして…
「許婚です」
疾風の気持ちは楓に伝わらず、千夜子の頭の中が真っ白になった。現在、千夜子の脳内は許婚という単語の空襲及び無差別爆撃により、焼け野原状態であります!
「何故言う!?」
疾風が楓に詰め寄った。