『終わらない……』-1
気がつくと、国道沿いのベンチに一人で腰掛けていた。
夜も更けて、最終のバスはとうの昔に行ってしまった。
ひどく疲れて体が思うように動かない。
私は膝と膝の間に顔を埋めるように体を折り曲げ、両手で顔を覆うと、静かに、声も立てずに泣いた。
いくら泣いても涙は涸れることはない。
残り時間は少なく、出来ることは何ひとつなかった。
始まりはあの夏の日。
あの手この手で口説き落とした女を助手席に乗せ、浮かれた気分で海に向かう途中での事故だった。
わき道から跳ねて飛び出したボール。その後を追う少年は黒い子犬のようで、急ブレーキの音、助手席の悲鳴、そして微かな衝撃……。
気がつくと私は、ぐったりとした子供を抱いて泣き叫ぶ母親のかたわらで、何も出来ず、ただ呆然と立ちすくんでいた。
「ドウカ…、オォ、カミサマ、ドウカ、ハヤク、ハヤク、イシャヲ、コノコシンダラ、ワタシ、アナタヲ、ノロッテヤル。ズットズット、ノロッテヤル。オォ、カミサマ、ハヤク、イシャヲ、ハヤク……」
母親の狂ったようなまなざしと剣幕に圧倒された私は、意味のない謝罪の言葉を何度も口にしながら、逃げるようにその場から立ち去ってしまった。
警察はおろか、医者を呼ぶことさえ毛頭考えられなかった。
それからというもの。私の心と身体は、次第にあの女の呪いに蝕まれていった。
頬はこけ、目は落ち窪み、夏から秋、冬を迎える頃には、人並み以上に太っていた身体も、案山子に無理やり服を着せたような、惨めな有様になった。
眠れない夜が幾度となく続き、酒の量は日増しに増え、睡眠薬がなければまどろむことさえ出来なくなった。
ある夜の事。
強い薬のせいかフラフラと夢遊病者のように家を抜け出した私は、この場所から車の前に飛び出したのだった。
ヘッドライトの光りを受けて浮かび上がる私の姿、それを見つけた運転手の驚いた表情、目を見開き、身をこわ張らせ、危ないと叫ぶその言葉さえ聞こえたような気がした……。
そして私はここにいる。
死んでもなお罪は償えず、呪いは消えることがない。
とうの昔にこの身体は火に焼かれ、わずかな灰と立ち上ぼる煙となってこの世から消えたというのに、魂は未だこの場所に囚われたまま、なす術もない。
道の向こう、闇の彼方に二つの光点があらわれた。
大型のトラックが唸りをあげて近づいてくる。意思とは裏腹に私の身体は立上がり、車道の中央に一歩また一歩と踏み出していく。
何度繰り返しても、未来永劫終わることのない、死の瞬間の苦しみを、痛みを、またもう一度味わうために……。
End