交錯する想い-1
会えないことは知っていた。
例え雨が降ろうとも、彼女が帰ってきてあたしの前に姿を表すなんてことありえないと知っていた。
でも、あたしは会いたいと願ってしまう。それがたった二泊三日の遠征だとしても、普段気にしない彼女との距離に気付かされ、また淋しさにおそわれる。
季節の移り変りは早い。つい最近まで青々としていた葉が紅葉し枯れて落ちる。一枚、一枚と落ちていく。
それは音の無いリズムを刻み、あたしの心に響いていた。
『交錯する想い』
あたし、須藤涼子。ただの高校生。普通の生活をしていたはずだった。去年までは。
あたしの普通の生活を変えたのは四月の出会いだった。一人の少女だった。
あたしよりも背が高くて活発な彼女。あたしは彼女と親友になったと思った。
思ったのに、違う。あたしはまだ充たされていない。彼女を求めている。
でも、これって世間的にはどうなのかしら。あたしは頬付きながら考える。
どうも何事にも穏やかに望みたがるあたしの性分があたしの本当の気持ちを隠しているのだろうか。
まったく、いい性格している。あたしはそう苦笑しながら、止まっていた手に気付いた。
あたしは手芸部に所属している。もうすぐ展示会も近い。急いでやらないと間に合わないわけではないけれど、それでもぼうとしているわけにもいかない。
『涼子ちゃん?どうしたの。さっきから妙な顔で窓の外を見つめて。』
そうあたしに話し掛けてきた彼女は小松美央。あたしとは入部当時からの付き合いで今年は同じクラスになった。
肩にかかる彼女の髪は茶髪に染まっている。化粧も施していて、見えないくらいに細い眉が目立って見える。耳にはイヤリングが下がって、彼女が話し掛けるたびにそれは揺れた。
彼女は軽い女の子と見られていることもある。でも、実際は賢い子だし、自分が他人にどう見られているのか分かっていた。
まあ、それがわかったのはあたしもつい最近のことなんだけどね。
『うん。大丈夫。ちょっとぼうとしちゃった』
心配してくれる美央にあたしはそう言った。
一見、美央は手芸に興味なんて無さそうだが、実は部の中では一番器用な仕事をする。
『ふうん。涼子ちゃんがぼうっとしているのはいつものことなんだけどね。今日は何か考え込んでいるように見えたから。珍しくてね。』
彼女はそう言う。それはもう楽しげな様子で。つまりあたしは彼女のおもちゃなんです。
『ひっどい。あたしいつもぼけっとなんかしていないよ。』
あたしが美央のからかいを否定し、彼女がそれを嘘だという。いつもどおりのあたしたちのやりとり。
『そうですよ。センパイの作品は展示会でも受けがいいですから頑張ってもらわないと。』
そう言いながらあたしたちの目の前に紅茶が置かれる。
置いてくれたのは一年生の後輩、神山真人くん。女子ばかりの部活の中でも、彼の中性的で端正な顔立ちは見劣りしない。まあ、世間的に言う美青年になるのかしら。
『そ、そうね。ありがとう』
あたしは彼から受け取ると少し口を付けるとまた机に戻す。
『わぁい。ありがとね。真人。ところであんた、やけに涼子ちゃんびいきするじゃない。あたしのは大したことないっていうの?』
美央は真人くんに向かって言った。
『そんなことありませんって。』
真人くんは困った様子でそう言った。美央ってばあたしだけじゃなく、特に後輩たちをからかったりしているからあたしも今は真人の気持ち分かるな。
『いいえ。これはひいきよ。ああもう、あたしいじけてやろう。それであんたを困らしてあげるんだから。』
あたしはその二人の様子を見ながら苦笑し、もう一口紅茶に口をつける。