交錯する想い-3
彼はあたしの態度を見てため息をつく。恐い。彼は今だにあたしから離れようとしない。それどころかあたしに近づいてていた。彼の目がこんなにも暗く悲しみで満ちているなんて。
それがあたしがなすすべもなく無理矢理唇を重ねさせられた時に感じたことだった。
抵抗はできない。左腕は軽く押さえ付けられる。あたしはその一瞬が永遠のように感じられた。
『っく、やめて』
そして弾けたように藻掻く。体は無茶苦茶に彼を否定する。あたしが突き放した彼の態勢はふらつきながらもあたしに寄り掛かる。あたしの目から涙が溢れるのを確かに感じた。
『すみません。でも、知っていたんですよ。小岩井センパイ。センパイと同じクラスの女子バスケ部の人ですよね?センパイの思い人』
あたしの頭の中に何故が溢れる。恐れ、驚き、そういった感情が一気に押し寄せてきて、一瞬声を失った。
『何で彩夏のこと知っているの?』
はっと気付くと同時に彼の顔を見上げる。
『分かりますよ。それくらい。といってもほとんど勘のようなものですが。』
そんなこと信用できるのだろうか?今の状況からあたしは彼をなかなか信用できずにいた。しかし、彼はそんなあたしの心中を知ってか知らずか言葉を続ける。
『それでセンパイ。一つ賭けをしてみませんか?センパイが彩夏センパイに受け入れてもらうのが先か、俺を受け入れてくれるのが先か』
『そっそんなこと、決まって。決まって。』
そうか、彩夏も女の子から付き合ってなんて言われたら引いちゃうよね。きっと付き合うなんてできないのかな。でも、あたし嫌だよ。本当に好きな人と付き合わないで気持ちを偽って付き合えるわけない。
『真人くん。こんな賭け、受けられないよ。』
あたしはまた泣きそうなくらい目頭が熱くなっているのを感じた。
『今日はいきなり乱暴にしてすみませんでした。でも、それだけセンパイのこと思っているんです。俺は待っていますから』
そういうと彼はあたしから離れると扉の先に帰っていった。
外はすでに暗くなっていた。時間は大してたっていないのにこんなに暗いのは、それだけ日が早く沈んでいるからだろう。暗くなっても街並木の木々が紅葉したり、落葉して淋しくなったことが分かる。
休みが明ければまた彩夏に会える。だけど一体どんな顔して会えばいいのだろうか。
バスの窓に映るあたしの顔は今にも泣きそうだった。少なくてもこんな顔で会いたくはないな。あたしは憂欝な気持ちを拭いきれないまま帰路へ着いた。