心理学的『性的興奮』のススメ♪-6
「ちっ、気が付かなかったな。残念!」
そう言って舌打ちする浩志。
コイツ…信じらんねぇ…唖然とする俺。
「『アイツ、喰われちまったかな』だって、今からだっつーの」
ケタケタといつものように笑う浩志に、ホッとしたような、デリカシーのなさに、ムッとするような…複雑な気持ちで見つめていた。
「和哉、俺、もう止まんないよ…」
忙しくベルトを外す音に耳を傾けながら、ここにきて、未だ迷っている自分に気付く。
逃げたくなる気持ちに苛まれていたとき、いきなり腕を掴まれて、胸の前で、まるで手錠でも掛けられたように外したベルトで縛りあげられてしまう。
「…なんだよ…コレ…なんのつもりだ?」
「ん?だって、多分、メチャメチャ痛いから、暴れられたら困るでしょ?だから♪」
だから♪って…オイオイ…やっぱ…痛いのかよ
「ひ、浩志、ちょっと待ってよ」
「嫌だ」
即答した浩志が、迷わず体を預けてくる。
「わっ…あぁっ…っ!」
叫んで、体をくの字に曲げる。
『埋め込まれる』時の、切り裂かれる痛みが頭のてっぺんまで駆け上がったのは、その時の一瞬。
「大丈夫?和哉、ねぇ、和哉…」
止めていた息をやっと吐き出すことが出来た俺は、手首を縛られたその腕の中に、心配そうに俺を覗き込む浩志を包み込んで、ただただ、白い息を吐きながら、『大丈夫』と頷いていた。
「和哉、すごい熱いよ…なんか…もう、ダメかも…」
ハハハ…と笑う浩志がなんだか可愛くて、思わず自分から腰を押し付けてみる。『んっ!』と甘い声で喘いで目を閉じる浩志に、俺の体はゾクゾクっと痺れる。
駆け上がる二つの欲望が重なり合って、身に覚えのある絶頂へと急いで昇って行く。
「あっ…浩志…あぁっ…もっ…でるっ」
浩志の『ハァ、ハァ』と言う熱い息遣いを、耳のすぐ側で感じながら、俺は真っ白い世界へと落ちていった。
「なぁ和哉…田崎の話、本当だったな」
「!!」
俺は、手に持っていた焼きそばパンを危うく下へ落しそうになる。
「おまえ…また来たのかよ…」
「人間は、恐怖と恋愛のドキドキが区別出来ないって話」
「…」
「心臓がドキドキするような出来事が起こると人間は恋をする。本当だったね」
「…やめろ」
「だって、ほら、笠間さんが入って来た時―」
わぁっ!と叫んで俺はとんでもない事を口走ろうとする浩志の口を押さえた。
「んぁ?俺がどうしたって?」
笠間が隣でキョトンと俺たちを見上げる。
「な、なんでもないよ」
と、言って引きつりながら笑って、俺は、浩志を引きずって廊下に連れて行き、投げ捨てる。
「帰れよ。もう、心臓に悪いよ…俺を早死にさせたくなかったら、早く帰ってくれ」
「わかったよ、じゃぁ、心臓に悪いついでに『恋愛』のドキドキをもうひとつ…」
そう言うと、浩志は、『大好き』と叫びながら、ポカンとしている俺を抱き寄せて、キスをした。
そして、俺を抱き締めたまま、浩志が大声で叫ぶ。
「笠間さぁん、お先にいただきましたぁ〜」
「……」
教室が一瞬静まり返り、教室中の視線が俺たちに集中しているのを背中で感じて…その後は。
そう、いつものように、俺の悲鳴が教室に響き渡るのだった。
俺が、最後に浩志が吐き捨てた言葉の意味を、嫌と言うほど知らされるのは、もっと先のお話で…
取りあえずは、目先の『ドキドキ』で手一杯の毎日が今日も過ぎていくのでした。