心理学的『性的興奮』のススメ♪-3
「はぁ〜…もうヤダ…」
家に着くなり、大きな溜息をひとつついて、ダイニングテーブルに突っ伏した。
「もう、帰る早々溜息なんかつかないでよ。こっちまで、くらぁ〜い気分になっちゃうでしょ!」
「そうそう、幸せ逃げてくぞ、兄貴」
カウンター越しのキッチンから母が叱咤。隣のリビングでテレビゲームに夢中の弟が冷やかす。
あぁ、何とでも言ってくれ。俺はあれからずっと、近々訪れるであろう史上最大のピンチから、どう脱出するか…そればかりを考えている。
田崎…変なこと言いやがって。俺の身に何かあったら、一生あんたのこと恨んでやる。
だぁ〜!!もう、嫌だ嫌だ!これもそれも…
「全部、ぜん〜んぶ!アイツのせいだぁ〜!!」
感極まって、頭を抱えて大声で叫んでしまう。
俺の叫びに母が『キャッ』と驚愕の声をあげ、手に持っていたフライ返しを落とした。
その後に、ポツリと聞こえた低い声。
「それってさぁ〜もしかして、俺のことか?」
俺は体中の血がピキピキと凍りつく音を肌で感じた。
ここから死角になっている、弟の肩の向こう側を恐る恐る覗いた俺は、驚きと恐怖で椅子ごと床にひっくり返った。
「浩志!!な、な、…なんでおまえが俺んちにいるんだよ!!」
「なんで俺が友達んちにいちゃいけないんだよ」
キッチンのカウンターに隠れて、顔だけひょっこり出し、暗がりで、テレビの青い光りに照らされて浮かび上がる、弟の横でゲームに没頭する、浩志の横顔を睨みつけた。
なんで俺が、自分の家で、しかも、弟の友達にこんなに怯えなくちゃいけないんだよ!
年下だぜ、トシシタ!!
「おまえ見てると不愉快になるんだよ!…飯いらない。」
「何言ってるの!後で何か作れって言わないでよ」
母の声
「浩志に失礼だろ!謝れよ」
弟の声
「…」
それから、刺す様な、ヤツの視線
俺は、すべて無視して思いっきり扉を叩き閉めてやった。
はぁ〜…
俺は今日、こうして何回溜息をついただろうか。
白い息が消えていくのを見送りながら、自室のベランダにへたり込んだ。
ほとんど寝そべった状態で見上げた空に、青いお月様がひとつ。
じっと見つめていると見つめ返してくる。
本当は、ちょっとだけ後悔している。
いくらなんでも、『不愉快になる』は言い過ぎだ。
最近の俺は、何故か浩志を見るとイライラして仕方が無い。
それは、不思議なくらい、心臓に悪いくらいのイライラ感なんだ。
見上げた月に向かって、再び溜息をつく。
その時、俺と月の間に見馴れた影が飛び込んだ。