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刃に心
【コメディ 恋愛小説】

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刃に心《第2話・記憶というものはあやふや》-6

「見聞を広める為と言ったが、本当はお前に会うのが全てだったのに…」

頼りなさそうに見えて、意外と頼りになる男だった。

「私一人で舞い上がって…馬鹿みたいだ……。
このまま…忘れてるのなら…帰るべきなのかもな…」

自嘲の笑み、そして…

「はあぁ…」

三度目の溜め息。
その時、視界の片隅に人影が映った。

「楓!」
「疾風…」

楓は四度目の溜め息の様に、許婚の名前を呟いた。

◆◇◆◇◆◇◆◇

「思い出した」

疾風がそう言うと楓は一瞬固まり、嬉しそうな顔をした。

「そうか!」
「でも、許婚ってのは決められない。いくら約束だからって、お互いの人生を左右するものだし、そんな簡単なものじゃないと思う」

疾風がそう返答すると、今度は悲しげに…

「…分かった…許婚の話は…水に流して…」
「あ、いや…そう言うことじゃなくて…あの頃は幼かったからよく分からないまま約束しちゃったけど、今なら昔よりは多くのことを知ってる。だから、もっと話し合いたい。俺…楓のことをもっと知りたい」

疾風は上手く説明が出来なかった。けれど、責任を持って言ったつもりだった。

「…俺も約束は守るべきだと思ってるから」

疾風が言った。それを聞いた楓の瞳には涙が溜り、溢れかけていた。

「私は…私は疾風の側にいてもいいのか?」

ツゥーと流れる雫。それは落ちて地面に黒い染みを穿つ。

「ああ。でも、許婚って言ってもあんまりお互いのこと知らないし、もしかしたら気持ちが変わることもあるだろうし…」

そう言って手を差し出した。そう、記憶の中のあの日の様に…
楓はためらうこと無く、その手を取った。

「どうなるか分からないけど、これからよろしく」
「ああ、よろしく頼む。許婚♪」
「まだ、どうなるか分かんないって…」

公園を後にして、遅くなった家路を急いだ。

「私は変わらないぞ…」
「ん?何か言った?」

疾風は半歩程後ろを歩く楓に尋ねた。

「いや、何でもない」

プイッとそっぽを向いた楓。その顔が赤かった様に見えたのは疾風の気のせいだろうか?


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