刃に心《第2話・記憶というものはあやふや》-4
「秘密裏に業者に頼んでおいた回転扉はなかなかの物だと思わぬか?のう、兄者!」
「お前に言いたいことは二つ。その喋り方やめろ、そして何の用だ?」
「つまんないね…まあいいや、本題に入るよ。兄貴、退行催眠やってみない?」
「催眠術で過去を思い出すアレか?」
「そ。私催眠系の忍術得意だしさ!パパッと終わるよ」
うさん臭い。だが疾風は思った。今は信じてみるのも悪くない。
「分かった。頼むけど…変な暗示はかけるなよ」
「分かってるって。第一、兄貴は身体的、精神的に攻撃されると無意識でも反撃にでるから危ないの。てか、逆に無意識の方がリミッター外れてるせいで、本気で攻撃してくるし……カ○ン君も真っ青」
「誰?」
「ん、螺旋」
「………」
「とりあえず、横になってコレに集中してね」
ジャランという音と共に水晶の振り子が揺れる…
「怖くない…力を抜いて…そう…」
段々と霞の声が遠のいていく。
「過去に戻ります…1年…2年……」
少しずつ数字が大きくなり、頭がボンヤリとしてくる。そして…
「10年」
◆◇◆◇◆◇◆◇
疾風の目の前にはあの光景と、小さな楓がいた。どうやら、自分は幼い日の自分の中にいるのだと疾風は気付いた。
『もう…行くのか?』
楓が寂しげに尋ねた。どうやら別れの時らしい。
『うん…』
『…そうか…』
楓が袴の端を握り締め、俯いた。
段々と鮮明になってくる記憶。父に連れられ、山籠もりをしている友人の家で修行をしていた時の記憶。その時の修行相手が楓。修行の合間に遊んだ記憶も蘇る。
『はっはは!泣くな楓!また会える!』
そう言って豪快に笑い飛ばすがっしりとした男。多分、楓の父の榊だろう。
『ほんと、父上?』
『ああ、お前らは許婚だからな!』
『父さん、いいなずけって?』
『それはな、男と女が将来結婚しようっていう約束だ』
『そうなんだ』
疾風は一瞬純粋無垢な自分をはたいてやろうかと思った。
『嫌か?』
『ううん、いいよ。おれ、楓と結婚しても』
以下は疾風の感想である…
おいおい、何言っての俺?お前、その幼さ故の何の責任もない発言が後々大変な事になるんだぞ!