刃に心《第2話・記憶というものはあやふや》-3
「とにかく、後は若い者同士っていうことで♪」
手をポンッと叩き、さも面白そうにしのぶがお見合いにおける定番の台詞を吐いた。鹿威しが、カコーンと鳴りそうな勢いである。
「まあ、俺と榊が酔ったついでに言った口約束だが、二人でよく話し合うんだな」
そう言って両親は退室。いつの間にか、霞の姿も見えない。
後に残された若い者二人…
気まずい…
メッチャ気まずい…
「小鳥遊さん」
「楓でいい」
「じゃあ、楓さん」
「さん付けもやめてくれ」
意外と注文が多い楓。
「楓、君は覚えている?」
「ああ…全部じゃないが、疾風が帰る時のことは覚えている」
「じゃあ、君はどう考えてるんだ?」
「そ、それは…」
ふつふつと楓の顔が赤く茹っていく。
「わ、私は…約束は守らねばならぬものだと思っておるから…」
すっかり茹で上がった楓はそう答えた。
まあ…律義というか…真面目というか…
「そんな、口約束らしいんだからそこまで律義に守る必要も無いと思うんだけど…」
「でも…」
「それに好きでもない奴と結婚するなんて嫌だろ?」
そう言うと楓は疾風をキッと睨み付けた。猛禽類を思わせる鋭い眼光に疾風はたじろいだ。
何処がタカナシだよ…タカアリじゃないか…
内心、疾風がそうビビっていると…
「嘘なのか…」
肩を震わしながら楓が呟いた。
「お前があの時言った言葉は、私を娶ると言った言葉は嘘だったのか!」
さらに強く叫び、楓は疾風に詰め寄った。しかもその手は刀に…
また、疾風の身に覚えがない…というか、記憶に覚えがないものが出現…
「…だ、だから…その辺の記憶があやふやで…」
「………」
身の危険を感じ、後退ると仕方ないと思ったのか、楓は辛そうな表情と共に座り直した。
そして、沈黙…
何と重量感のある沈黙なのだろうか…
「…すまぬ…熱くなり過ぎた…少し頭を冷やしてくる…」
刀を腰に差し、楓は部屋を出ていく。罪悪感が疾風の胸で疼き、それでも思い出さない自分の頑固さに嫌になった。
「ふはははははは!悩んでおるのう、兄者よ!」
唐突に何の前フリなく壁が開き…ていうか回転して霞が出現。
「どうだ?忍者らしい登場であろう!」
何故か誇らしげな霞。