In the moment −miki−-1
パパが私を抱っこしたまま、泣いていた。
ときどきママもそうやって泣いていたし、私が寝ているときにこっそり泣いていたことも、私は知っている。
おばあちゃんは、もうママはいないんだよ、遠くにいってしまったんだよ、と教えてくれたけどそれはちょっとよく分からなかった。 ママは海が好きだから、きっと冒険にいったんだと私は思う。
パパはずっと泣き続けて、それから私を抱っこしたまま立ち上がった。
「何かおいしいもの食べにいこうか」
パパはそう言った。
私がアイスクリームを食べたいというと、パパはアイスクリームがおいしいおみせを知っていて、そこに連れていってくれると約束してくれた。ママともよく行ったお店なんだと教えてくれた。
本当はママとパパと一緒に遊びに行きたかったから、それをパパに教えてあげると、パパは笑いながら、ママとはまた今度ね、と言った。笑っているんだけど、変な顔だった。
パパは、私がパパと会うまでのママのお話しをききたいと言った。私は教えてあげた。ママは優しくて、でも怒るととても怖くて、泣き虫でよく笑っていたということを話した。 ママはよく夜に泣いていた。しくしくと。
それをきいたパパは、またとても悲しそうな顔で「そっか」と下を向いていた。
私はパパに抱っこされたまま、パパの顔を近くからじっと見た。
「ずっといっしょにいれる?」
パパは驚いた顔で私を見て、ちょっとしてから「わからない」と言った。わからないじゃわからないから、私はもっとがんばってパパにお願いしてみた。パパといっしょにいたいし、私のお友達みたいに遊園地とか公園とか行きたいからいっしょにいたい。パパはこまった顔で「じゃあ、君がもう少し大きくなったらね」と言った。私はちょっと怒って言った。 「おっきくなってからじゃなくて、今、いたい」
パパはちょっと驚いた顔をしてから、少しうれしそうな顔とさびしそうな顔と悲しそうな顔をした。
「ママにそっくりだね」
とパパは言った。
ママにそっくり。そうだよ。私はパパに言った。ママもすごくパパが好きだから、私もパパが好きだよ。ママが冒険からかえってきたら教えてあげようよ。いっしょにアイスクリーム食べたこととか、あそんだこと。だからいっしょにいよう。きっとそのほうが、みんなよろこぶよ。
「そうだね」
パパは私をおろして言った。
「それじゃあ、アイスクリームを食べたらママのおうちへ行こうか。君と僕がいっしょにいてもいいかどうか、おばあちゃんとおじいちゃんにきいてみないとね」
「いれるもん」
私は言った。
「きっといれるもん」