刃に心《第1話・出会いは闇討ちと共に…》-6
「───!!」
そこで初めて相手の姿を確認し、彼は目を見張った…
黒っぽい胴着と袴、その上には白い羽織。腰にはいつの間にか、白塗の鞘に納まった鍔無しの太刀。
侍の様に後頭部で結われた黒髪のポニーテール…
吊り目がちの鋭い瞳…
雪の如く白い肌…
驚く程整った顔立ち…
月光に照らされたその凛々しい顔は、ある種の神々しさを感じさせる…
「……やっと…見つけた…」
リン…と、鈴が響く様な声で女剣士がポツリと呟いた。表情は相変わらず抜き身の刀の様な印象を与える。
その言葉の意味を聞く前に女剣士は腰の太刀に手を掛け…
「ッ!!」
一歩で間合いを詰めた女剣士は一瞬で刀を抜き払った。疾風は反射的に飛び退いたものの、躱し切れなかった右の脇腹は制服が巨大な口を開けていた。
居合い…抜刀術…
彼女の使う剣術はまさしくそれだった。
しかも、抜刀の速さもさることながら納刀の速さが凄まじい。躱されたことに気付いた瞬間には刀を納める態勢に入り、俺が完全に間合いを切った時にはもう刀に手を掛けていた。
疾風は匕首を逆手に構え、意識を仕事用に切り換える。
生と死を直に感じる中で妙にわくわくしている自分に気付いた。彼にも闇の一族、忍足家嫡男としてのプライドがあるから、退く訳にもいかない。
「誰だか知らないけど…この喧嘩、高く買わせてもらう」
言い終えると同時に小さな筒を投げ付ける。案の定、真っ二つになったが、筒の中から白い粉が煙幕として張られた。
その機を逃さず、間合いを詰める。素早く納刀した相手が、また太刀を抜いた。その斬撃に白い煙幕が断たれ、その先の黒い影も切り裂かれた。
「!!」
女剣士が驚愕した。切り裂かれたのは黒い学生服。二分割にされた学生服がパサリと落ちた。
無論、そこに疾風の身体は無い。
空蝉とか、変わり身とか呼ばれる結構ポピュラーな忍術。
だが、これはかなり役に立つ忍術でハッタリにはぴったりだった。相手もこれに対応出来ず、思わず後退。
「止まれ」
そして、瞬時に相手の背後を取った疾風が匕首の刃を背中につける。
「…参った」
剣士はそう言って、刀を鞘に納め、敗北の意を示す。疾風も匕首を納めた。
「で、俺を襲ったのは君の意識?それとも、雇われ先の意向?」
いろいろと恨まれることもある業界の為、こんな事は過去にも何度か経験済の疾風…
「忍足疾風だな」
女剣士は振り返った。疾風は改めて美しい容貌だと思った。