刃に心《第1話・出会いは闇討ちと共に…》-5
「すいません、仕事があるんでまた…」
「そ、そうか…悪かったな、引き止めて」
一礼して帰ろうとする疾風。
「疾風、今日の仕事は何なんだ?」
千夜子が尋ねた。千夜子も堅気じゃない為、疾風の裏も知っている。
千夜子の祖父は、ここら辺で一大勢力を誇る功刀組組長。疾風と千夜子はとある事件をきっかけに知り合った。それはまた別の機会に…
「詳しくは言えませんが、探偵みたいな事です」
「そうか、気をつけろよ。最近、この学校の生徒が通り魔にあったらしいし…何かあったらアタシに言えよ?疾風の頼みなら何だって聞いてやるからさ!」
「ありがとうございます」
先輩に頼むと仁侠の世界で生きている屈強な人達が出てきそうだな…などと思いつつ、何だかんだで面倒見の良い千夜子に感謝する。
「じゃあ、さようなら」
そう言って屋上を後にした。そのまま、今日の仕事先の街へ向かう。
◆◇◆◇◆◇◆◇
疾風が去った屋上、食べかけの板チョコを千夜子が見つめていた。
辺りをキョロキョロと見回し、人影が無いことを確認すると意を決して囓った。
囓った部分は先程、疾風が食べたのと同じ箇所。口一杯に甘さが溶け出す。何故か今まで味わったことが無いくらい甘かった。
「…えへ…えへへ…♪」
目尻はだらしなく垂れ、ちょっと不気味な笑みが零れた。
「疾風と…間接キス♪」
夢見る様にうっとりと…
時代錯誤気味の死語を放ち、倒錯した幸せに酔う。今時、小学生だって間接キスで喜ばないと思うのだが…
「…うるせぇぞ、ナレーション」
千夜子が刺し貫くような視線を浴びせる。
…すみません。
◆◇◆◇◆◇◆◇
疾風の今回の依頼は浮気調査。ターゲットを尾行しつつ、証拠写真を何枚か撮り今日は帰宅。
その帰り道。日ノ土高校の近くの公園の中を通って、近道することにした。
心地よい暗闇に自然と足取りは軽い。鬱蒼と茂る林、人の姿は無く忍として最も落ち着く情景。
そこを通り抜けようとした時…
「!」
不意に感じた視線と殺気。思わず身構え、隠している武器に手を伸ばす。
片手で刃渡り約30cm程の匕首(あいくち)と呼ばれる小刀を取り出した。
───キィン!
金属同士がぶつかった。疾風は瞬時に切り返すと、横に薙いだ。相手は軽く地面を蹴り、間合いを切り、一撃を躱す。