刃に心《第1話・出会いは闇討ちと共に…》-4
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滞りなく授業は全て終わり、放課後。部活に行く者、帰宅の準備をする者など様々。
帰宅部の疾風は教科書やノートをバッグに詰め込んでいく。
「疾風、ちょっと」
武慶が手にプリントを持ち、疾風に近付く。
「何?」
「今日、お前バイトある?」
バイト=問題処理屋の隠語。堅気の人間で唯一、疾風の正体を知っているのが武慶である。まあ、堅気じゃなければこの学校にもう一人いるのだが…
「あるけど、ちょっとなら大丈夫」
「じゃあコレ、功刀先輩に渡してくれ。先輩、お前だと機嫌良いから」
「いいけど、別に俺だから機嫌良いわけじゃなくてちょっとした知り合いだからだよ」
疾風はプリントを受け取った。
すると武慶は少し含み笑いをし、ポンポンと肩を叩き…
「まあ、頼んだよ。功刀係♪」
そう言って、慌ただしく次の仕事に向かった。
「委員長も大変だな…」
武慶はこのクラスの委員長である。真面目な気質の武慶にぴったりの役職。
「まあ…チョコ先輩のところに行くか」
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屋上。四角の立方体になっているその出入り口の上。そこに、チョコ先輩こと『功刀 千夜子』(クヌギ チヨコ)はいる。
彼女は一つ年上なのに、疾風と同じクラスにいる。
…つまり…留年してしまったのだ…
「チョコ先輩」
梯子を登りながら、呼び掛ける。
「その名前を気安く呼ぶんじゃねぇ…って、疾風か!」
千夜子は疾風に気付き、勢い良く起き上がった。
「お前ならいいんだ♪ごめん、アタシ今寝てたから」
スラッとした長身、疾風よりも背が高い。良く言えば、スレンダー。悪く言うと…凹凸の少ない身体。髪は校則違反の茶髪ストレート。
「先輩、コレ」
「あ〜、いつも悪いな」
千夜子は笑顔と共にプリントを受け取った。
「よし、そんな疾風にいいもんやる!」
そう言って取り出したのは板チョコ。チョコは千夜子の好物であり、髪の色と名前、そして好物…故にチョコ先輩。
「いいか!一口だけだぞ?全部はやらないからな!」
折角なのでそのご好意を受け取る。包装紙を剥し、一口。パキッと軽快な音と甘い味が広がる。
「ごちそうさまです」
板チョコを千夜子に返す。
「なあ、疾風…き、今日…時間あったら…その…アタシと一緒に帰らない?」
少々、モジモジとためらいながら千夜子が誘った。疾風は携帯の時計を確認した。仕事の時間が差し迫っていた。