たまんねぇんだよ!-2
「だけど、おまえは、俺のこと、『愛してる』って抱き締めてはくれないよな」
「おまえ…、どうしたんだよ。何があったんだよ」
正直なところ、なんだか浩介が怖かった。このまま流されてしまうと、そこには何があるのか…浩介が、一体俺に何を求めているのか、全く見えてこなかったから。
「再婚するんだって、かぁちゃん」
天井を見上げてポツリと呟く浩介。
「俺、物心ついた時にはもう、かぁちゃんと二人暮らしだった。寂しい時も辛い時も我慢した。かぁちゃんの悲しむ顔、見たくなかったから。それなのに…かぁちゃん『彼とフランスで生活することにしたの。ごめんね、浩介』って言うんだ。母親でなく、女の眼差しで『ごめんね』って。『おまえのお父さんになる人だよ』でも『一緒にフランスに行こう』でもない。『ごめんね』だぜ。俺、それ以上何にも言えなくて…俺は必要ない人間だって言われたような気がして泣きそうだよ。ばかみたいだろ?二十歳にもなって…ほんっと…バカだよ」
両手をクロスさせて、顔を覆い、息を殺している浩介。
多分、気を抜くと、涙がこぼれてしまう。崩壊寸前の岸壁でユラユラ揺れている浩介。
とても切ない気持ちになる。色素の薄い瞳をキラキラさせて俺を見て笑っている元気な『宴会部長、浩介』しか知らない俺は、戸惑っていた。
浩介…俺に出来ることってないのかな。お前を助けてやるには…親より深く愛してやるには、どうしたらいい?なぁ〜浩介…。
浩介の前髪にそっと触れる。茶色くて柔らかな髪は、まるで羽毛のように軟らかい。
「浩介。心配すんな。本当におばさんが、浩介のこといらないって言うんなら、俺が貰うってやる。浩介のこと、俺が貰うから」
驚いて俺を見つめる浩介。
だけど、一番驚いたのは俺自身。無意識とは大げさかもしれないけれど、意識とは別のところ。
多分そうだ。俺の心がそう叫んだのだろう。
「太一のバカ野郎…わけわかんねぇよ…」
わかってるくせに…。
俺は、再び顔を覆おうとするその腕を掴んでベッドの上に広げた。
馬乗りになると、その線の細い体は、一層深くベッドに沈む。
浩介を見下ろした俺は、目じりに引っかかっている今にも零れそうな小さな粒を見つけゆっくり唇を近づけて、触れるか触れないかの瀬戸際で、吸い取る。
目をギュッと閉じてビクッと震える浩介。
「浩介、おまえの為に俺が出来ることってなんだろう」
「…」
「『愛してる』って言って抱き締めてやればいいのかな」
下唇を軽く噛んで、浩介は、視線を上げ、俺を見据えた。