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戦争を知らないあたしと、お爺ちゃんの戦争
【コメディ その他小説】

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戦争を知らないあたしと、お爺ちゃんの戦争-1

 あたし椿(つばき)。橘 椿(たちばな つばき)14歳、中学2年。
 ごく普通のサラリーマンのお父さんと、ごく普通の主婦のお母さんから生まれた、ごくごく普通の女の子。そして普通の家庭のあたしん家には、ちょっとボケてるお爺ちゃんが居るんだけどぉ……


「おーーーいっ! 誰か居ないのかあーー! 居たら返事しろおーー! おおーーーいっ!!」
 家族が寝静まった深夜、おじいちゃんは大声を張り上げて、家中を徘徊します。しかも今日に限っては、両親も家にいません。
「おおーーーいっ! おおーーーいっ!!」
「ああーーもうっ! うるさいなぁ! おじいちゃん静かにしてよ」
 あたしは思わず部屋を飛び出し、大声で怒鳴ってしまいました。だって明日から中間テストなんですもの、これじゃぁうるさくて勉強できないよ。
「おおっ! 橘上等兵! そこにおったか。この陣地はもう危ない、敵の奇襲を受ける前に撤退するんだ!!」
 どうやらお爺ちゃん、ボケた頭の中は、むかしあった戦争の頃に逆戻りしているらしく、あたしのことも下っ端の兵隊さんか何かだと思い込んでいるようです。
 そんなお爺ちゃんに対して、
「だからお爺ちゃん! ここは軍隊じゃないんだってば! まったくいつまでも戦争ごっこなんかしてないでよ! いい加減にしてよね!!」
 わたしはいっつもキレっ放し。
 かんしゃくを起こして文句を言うわたし。その度にお爺ちゃんは、「貴様たるんでるぞ! それでも日本男児か! 恥じを知れ! 恥を!」
 なんて言って怒ります。そのたんびにあたしも「あたしは女の子よ!」と、怒鳴ります。
 でも今日は少し違っていました。
「ワシはお前を死なせたくは無いんだ! 橘上等兵! 貴様は生きて日本へ帰れ!!」
 そう言ってあたしの腕をひっ掴み、家の外へと飛び出したのです。


「おっお爺ちゃん痛いよ! 放してえ!!」
「急ぐんじゃ! ここはもうもうたん! 生きて日本へ帰りたかったら走れ!!」
 いったい何処にそんな体力が残っていたのやら、お爺ちゃんあたしの腕を引っ張りながら、物凄い勢いで町内を駆け回ります。若いあたしの方が既に息も切れ切れ、付いて行けません。脚が縺れて転んだりします。
「だめだよ……お爺ちゃん! も……もう走れないよ!!」
 道端にへたり込んで、泣き言を言うあたし。そんなあたしの肩を抱えてお爺ちゃんが言いました。
「見ろ上等兵! あそこに敵の陣地が有る。最早避けては通れぬ道だ! これより我が隊は、敵陣への奇襲を慣行する」
 そう言うとお爺ちゃん、真っ暗闇の中、敵に察知されるのも恐れず、勝ち誇ったかのごとく明々と明かりを灯す、敵野戦陣地へと、強行にも突入を開始したのです。


 敵陣地前には、どうやら見張りらしい男が二人居ます。
「おい、火、有るか」
「ああっ使えよ!」
 見張りの男は、もう一人の男からライターを受け取ると、加えていたタバコに火をつけました。そうして美味そうに、吸い込んだ息を一気に吐き出したのです。真っ白なタバコの煙が、あたり一面を白に変えます。
「そう言えばお前んところの坊主はいくつになったんだ」
「うちは今年で5歳だ。生意気ざかりで手におえないよまったく」
「早いもんだなぁ。もう5歳かぁ。この間まではオシメがめんどくさいって、言ってたばかりなのになぁ」
「ああっ、まったくだ。ハハハァ」
 男達はそんな会話を、のん気に弾ませます。
 するとその時。
「討ちで死やまんっ! 天皇陛下万歳!!」
 掛け声と共に、一人の老人が男達に襲い掛かりました。
 不意を突かれた男達は成すすべなく、老人の攻撃を食らって倒れ込みます。何事かと陣地の中から飛び出して来た女性隊員をも蹴散らして、老人は陣地から食料を奪取し、そして疾風のごとく退散したのです。ヒットアンドウェイ、まさしく一撃離脱! ベテラン老兵の技に、敵は成すすべなし。


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