戦争を知らないあたしと、お爺ちゃんの戦争-4
「おい爺さん、それと上等兵、おれのゼロに乗りな。お前達は俺が逃がしてやるぜ!」
突然、暴走族のリーダーさんがそんな事を言ってきました。
「何かよく解かんねーけどよ、俺に真っ向からメンチ切って文句垂れた奴は爺さん、あんあたが初めてだ。気に入ったぜ! さあ早く乗りな!!」
そう言ってリーダーさん、あたしとお爺ちゃんに向って手を差し伸べます。
お爺ちゃんは「すまない隊長!」そう一言漏らすと。あたしを抱え上げてリーダーさんのバイクへと乗せました。そうしてお爺ちゃんも、リーダーさんに向って敬礼をすると、自分もまたバイクに跨ったのです。
「よっしゃー! 野朗ども! ブッチぎるぜっ!!」
『おおーーっ!!』
爆音と共に十数台のバイクが夜の街を爆走し、それを追ってパトカーの群れが迫り来ます。
あたしは必死になって、リーダーさんが着ている特攻服にしがみ付いていました。
「こらーー! そこの暴走族! 止まりなさい!!」
警察は逃げ回る私達を逃すまいと、非常線を張りつつ、パトカーでもって猛追してきます。
「くっそー! 多勢に無勢ってやつかよ! このままじゃあ逃げ切れねー!」
幾戦練磨、逃走にたけた暴走族達も、次々に警察に捕まって行きます。
あたしもお爺ちゃんも、もう駄目だと、先を諦めかけた時です。
「ヘッドー! ここは俺がおとりになりまーす! その隙にヘッド等(ら)はバックレてくださーい!」
一人の若い暴走野朗がそんなことを叫んだと思いきや、スピードを落として迫り来たパトカーの前で、蛇行を始めました。
「おらおらぁー! お前らみてーなへっぽこおまわりに捕まるような斉藤様じゃねーつんだよっ!」
「止めろサイトー! お前一人じゃ無理だっ! 戻れ!!」
リーダーの声に従うことなく、斉藤と言う暴走族は懸命に、右へ左へとバイクを揺らします。そして更にスピードを落として、パトカーの群れをブロックしたのです。
そんな斉藤に対して警察官達は。
「舐めた事してるんじゃないぞ小僧! さっさと止まらんか! 止まらんと逮捕するぞ! 無論、止まっても逮捕するがなっ!!」
そう言って怒鳴りつけ。
「けっ! やれるもんならやってみろてんだ!!」
斉藤は退きません。
「班長だめです! こいつ一人を構ってる間に、他の連中に逃げられます!」
「くそう下手な陽動なんぞしくさってからに! うーーむ……やむおえん。ぶつけろ!」
業煮やした警察機動隊の班長、部下にパトカーを斉藤のバイクにぶつけるよう指示します。
猛スピードで体当たりをするパトカー。煽りを食らって斉藤も転倒。健闘むなしく斉藤機撃墜。
「おうぉーー! サイトー! サイトー! 畜生ぉーー! お前ら全員ぶっ殺してやらーー!」
斉藤の様を見て、別の暴走族野朗が一人、Uターンしてパトカーの群れに突っ込んで行きました。
「止めろタカハシー! お前までパクられっぞ!」
慌てて仲間もそれを止めようとします。けれど。
「うるせー! 止めんじゃねー! サイトーは小学生の頃からのダチなんだ! ダチがヤベーってのに放っとく訳にいくかよー!」
誰彼の制止も聞かず、高橋もまた敵パトカー部隊の前に、その若い命を散らしたのです。
そんな彼等に向って、お爺ちゃんは黙って敬礼を続け。あたしは怖くて目も開けられませんでした。