戦争を知らないあたしと、お爺ちゃんの戦争-2
コンビ二の前で見知らぬ老人に不意をつかれ、防戦虚しく倒れこんだサラリーマン風の二人。
「なななっなんだあの爺さんは! 通り魔かっ!!」
「おいっ誰か早く! 警察に連絡しろ!!」
同じく襲われた女性店員も。
「痛ったぁ〜い! もう〜何なのよあれぇ〜!!」
皆パニクった様子です。
「おおおおお……お爺ちゃん! コンビにを襲うなんて! ななっ何て事するの!!」
あたしもパニクって居ました。何をしでかすかと思えばこのジジイ、突然コンビの前で立ち話をしていたおじさん達に襲いかかり、殴り倒したと思いきや、盗んだアンパンをあたしに差し出して。
「橘上等兵! 戦利品だがこれでも食って元気をだせ!!」
そう言いながら、またあたしの腕を引っ張って、ご町内中を駆け回ります。
あたしはお爺ちゃんから貰ったアンパンをかみ締めながら。
「ああ〜もう! あのコンビニには行けないじゃないのよ〜〜!!」
そんな事を叫び。涙で頬(ほほ)を濡らしながら。全力疾走で、走り続けたのでした。
そんな事は直ぐに警察に知られる事となり、コンビニ前にはあっと言う間にパトカーが集まって、町内もにわかに騒がしくなります。
そしてあちらこちらで、おまわりさん達が検問を張り、逃げ場を失ったわたしとお爺ちゃんは、坂本さん家の垣根に身を隠し、おまわりさん達に見つからない様にと、息を潜めました。
「居たかっ!?」
「いえっ! こっちには居ないようです」
「まだそう遠くには行って無いはずだ! 草の根分けても探すんだ!」
「イエッサー!」
そう言うとおまわりさん、仲間を呼んで町中の探索を始めました。警察犬もうようよ現れ、接待絶命のピンチだったりします。
「駄目だ! このままでは見つかってしまう。我ら日本軍人たるや、敵の捕虜になるぐらいならこの命、お国に捧げて自害して果てようぞ」
「ままっまさかお爺ちゃん! それって腹を切って自殺しろって…… 言うんじゃないでしょうね」
冗談じゃないわまったく! こんなボケたお爺ちゃんに付き合って、この若さで死ねるもんですか! あたしまだ恋だってしてないのよ! もうこれ以上はつきあってられないわ!
こうなったらしかたがありません、あたしは隠れていた垣根から飛び出し、おまわりさんに自首しようと思います。
が、その時。
「まてっ! あれを見ろ上等兵!!」
突然お爺ちゃんが、何やらこちらに向ってやって来る一団を指差し、叫びました。
「たくよー! なんなんだ今日はぁ。町中マッポだらけじゃねーか!!」
「ヘッド! やばいっすよこりゃぁ。下手に街中流したら俺達直ぐにパクられるっすよ!!」
「俺も可愛いベイベーをマッポなんかに募集さるのはごめんだぜ!」
「よーし野朗ども! 今日のところは解散とするかっ!!」
どうやらやって来たのは暴走族の方々の様です。各々はおかしな改造バイクに跨って、爆音と共に夜の街中を暴走します。しかしながら予期せぬこととは言え、街中に繰り出したおまわりさんの数にビビッてもいたらしく、なんだか今ひとつ、元気がありません。
そんな暴走族を前にして、何を血迷ったかお爺ちゃん、突然彼等の前に立ち塞がって、文句を言い出しました。
「こらっ貴様ら! 足るんですぞっ! いい若いもんが敵前逃亡とはけしからん! 恥じを知れ恥をっ!!」
「はぁ〜? なんだこのジジイはぁ!?」
暴走族のリーダーさん、突然あらわれた老人の気勢に焦ったのか、一瞬驚いた顔して固まります。それもつかの間、今度は怖い顔をして、お爺ちゃんを睨みつけます。
「なんだとくそジジイ! 入れ歯の調子でも悪りーんじゃねーのか! ガタガタ言ってやがるとケガだけじゃすまねーぞっこらぁっ!!」
「とっとと老人ホームに帰りなっ!!」
「ボケてんじゃねーよコノヤロー!!」
暴走族の人たちも、口々に文句を言いだします。
あたしは隣で聞いて居て、生きた心地がしません。