『ダイス』-2
目にしたものが信じられず、汗がドッと吹き出した。二人連れの男の背中には柄の長いサバイバルナイフが突き刺さり、女の方は後頭部がパックリと裂け、長い髪の半分を真っ赤な血で染めていた。
ボックス席の客は、真っ青な顔に充血した目と赤い舌が飛び出し、首にまかれたロープが天井に伸び、深い闇の中に消えている。隣りの客は散弾銃で撃たれたのか、顔の半分が失くなっていた。
「人は目的地を定めねばなりません。それが香しき花園であるか、見るもおぞましい彼の地であるかは別にして、旅には終わりがあるものなのですよ。それでは私から……」
目の前の男の声がそう告げると、私は我にかえり、テーブルの上を転がるダイスを見た。3と5の8。男はそっと二つのダイスをつまみ上げ、私の前に置いた。
「さぁ、あなたの運命のダイスを振りなさい」
私は血で汚れた自分の手と相手の顔を交互に見やりながら、どうしても振らなきゃいけないのかと何度も何度も尋ねていた。どうしても? なぜ私が? どうしても振るのか? なぜ、なぜ、なぜ!……
燕尾服の男はかすかに微笑むと、手のひらを見せて、私にダイスを取るように促した。
私は泣いていた。耳障りな音に、自分が声を上げて泣いているのだと初めて気がついた。泣きながら震える手でダイスをつかみ、つかみ損ねてまた拾う。私は震える手のひらをゆっくりと傾けた。
ダイスが落ちテーブルに当たる。二つの小さな塊が互いにぶつかりながら、飛び跳ね、一つはすぐに止まって、ダイスの目は4。そしてもう一つは……。
End