キスマークが消えないうちに…-4
俺は耳元で囁く。
「よく見とけ。これが答えだよ。慶太」
そう言うと、俺は、慶太の腕の間をスルリと滑り落ち、彼の下肢に跪く。
「わっ!タケル!!」
不思議なくらい、違和感を感じなかった。
それどころか、慶太のみなぎる、快感の中心を口に含んだ時も、「はぁっ…っ」と息を吸って、呼吸を止め、唇を噛みながら、そこから落ちまいと耐えている姿を慶太の足の間から見上げて、危うく自分が落ちてしまいそうになったくらいだ。
男だからわかるであろう弱点を、舌先で何度も舐めてやると、幾分も経っていないのに、
「あっ…だめ、も…でるっ…っ」
尾てい骨直下型の断末魔の甘い叫びは、『楽にしてくれ』と命乞いをする。
だけど、慶太の理性は、崖っぷちで足掻き、落ちまいと首を横に振り、小指一つでそこに、ぶら下がろうとする。
「イッていいよ、慶太。そこから落ちてみろよ。大丈夫、怖くなんかないよ。俺が絶対受け止めてやるから」
そう諭すと、俺は、慶太のモノを口いっぱいに含んで思いっきり吸い上げる。
「あぁっ!…ダメ…タケルっっ!」
体をくの字に曲げて、あっけなく吐き出され、喉の奥を激しく叩きつける、白濁した慶太の欲望の塊りを、しっかりと受け止めながら、俺は、ただひたすら不思議な優越感に浸っていた。
グッタリと俺の胸に倒れこむ慶太。はぁ、はぁ、と弾ませている肩を抱き締めて、ふたりは電車が枕木を踏む音に耳を傾けていた。
暫くして、意を決したように、ガバッと顔を上げた慶太が、俺を睨みつけて口を開く。
「共食いだよ。タケル」
「は?共食いって…おまえ…あのなぁ…」
ハハハ、間違っちゃいないな。なんて苦笑しながら、照れ隠しにそんなことを言ってのける、可愛い恋人を見つめる。
「好き」とか、「愛してる」とか、そんな安っぽい言葉で片付けたくないから、言わないよ。
だけど…。
俺は、目の前に鎮座する、彼を翻弄したという、黄色く変色し、消えかける吸血跡に再び喰らい付く。今度は強く、激しく…。
「あっ…いたっ…ぁ…タケル…」
再び甘い声を吹いて、俺の背中にしがみ付く慶太を抱き締めて、俺は思う。
―この跡が一生残ってしまえばいい―
吸い付いたまま、慶太の右耳越しに見える車窓。
そこに、さっきの、今にも消えてなくなりそうな俺も、あの儚い月も、もういない。
その代わり、夕暮れの空にくっきり浮かび上がった、あのレモン型の月がひとつ―…自分の居場所を見つけた俺に「私とあんた。一緒だね」と囁いていた。