秋葉原グラフティ-3
「オマタセシマシタ。カチョウサン」
やけに早いな? そう思いながらも社長はコーヒーを手に取り飲んでみた。
「ブーッ!ゲッホゲッホ!なんじゃこりゃあ!」
妙な酸っぱさに耐えきれず社長は漫画のように思いっきりコーヒーを吹く。
「コーヒートガムシロデス」
「いやいや!明らかに違うだろ!これお酢だぞ!いくら健康ブームでお酢が体に良いからってコーヒーに入れる馬鹿……ハッ! 健康?」
社長は何やらブツブツと小声で自問自答を始める。
「待てよ? このロボメいド(少女型)は仮にも22世紀の技術力を駆使した最高峰のロボットだぞ? ガムシロとお酢を入れ間違えるはずもない。ひょっとしたらこれは何かの警告なのかもしれない……最近疲れてるしな、俺もそろそろ健康に気をつけて働けというロボからの無言の訓示やもしれん。昨今のお酢ブームで疲労回復や美肌効果なんて良い効能も報告されてるしな。その点を深読みをしすぎて、ロボメいドは『コーヒーにお酢を入れる』なんて大挙をやってのけてしまったのだとしたら全て合点がいく……。もしかしたらもうどこか体が悪いのかもな? 今度医者にでも診てもらうか」
社長は再び「ゴホン」と咳払いをして言う。
「見苦しいところを見せてすまなかった。雪奈の気持ちはよくわかったよ。俺の健康を考慮しての行動だろうけど、次回からはちゃんとコーヒーにはガムシロを入れてくれ。」
「リョウカイシマシタ」
ロボメいドはそう言ってうなずいた。
わかってくれたか、と社長もホッと安堵した。
1時間後──
「これはこれは!東関西あんあびりてぃ社の専務さん!よくぞ遠路をお越しいただきました!どうぞ応接室でお待ち下さい!」
取引先の会社の偉い人が秋葉原グラフティ社に訪れた。社長はやたらペコペコしながら応対する。
「雪奈!コーヒーを2つ!大至急応接室にお持ちしろ!」
社長はそう言うとすぐに応接室へと消えていった。
「リョウカイシマシタ」
応接室では社長と他社の専務がプロジェクトの打ち合わせをしている。
「ふむふむ、じゃあここに一万個発注して……」
「コーヒーオモチシマシタ」
ロボメいドがゆっくりと応接室に入ってくる。
「ほほう、君の会社ではロボメいドを取り入れているのかあ、何か秋葉原ならではで良いね」
いえいえ、それほどでも……と言ってお互いにコーヒーを手にする。
『ブーッ!』
二人とも一斉にコーヒーを吹いた。
中身はやっぱりお酢だった。
「お前やっぱりワザとだろ!」
社長はそう言って倒れこんだ。
後日──
社長は念のため医師の診断を受けてたが結果はどこも『異常なし』だった。だが『ストレスが溜まっている』と指摘された。もう完璧あのロボメいドのせいだと確信した……
これから会社はどうなってしまうのだろう? そう不安を抱きつつもロボメいドの可愛さ故に社長は何一つきついことを言えずに、未だにお酢入りコーヒーを飲まされる毎日なのだった。
オタク社長とロボメいド
『完』