おほしさま-1--1
act 1 《真実》
秋風香る11月。
俺、佐伯 宏輔は、村病院に来ていた。
病院の中は今日も患者で溢れかえっている。診察を待つ老人や子供。その中を縫うように歩き、いや、早歩きで隅の病室へ急いだ。
「おぅ。元気かー?」
ガラッとドアを開けると、一つのベッドに一人の少女が横たえていた。
「…宏輔、おはよ。元気だよ」
「おはようって、もう昼だけどな」
彼女、高坂沙織は、眠そうに目を擦って答えた。背後にあるレースのカーテンが翻り、木漏れ日が彼女を照らす。
−それはまるで、命の灯が消えないことを願っているように。
「今日はな、りんごを買ってきたぞ」
りんごを取りだし沙織に見せると、彼女はとても爽やかな笑顔を見せた。
「いつもありがと…おいしいよ」
「良いんだよー。それより早く治せよ?」
「…うん。がんばる。」
−治すことが出来ない、病気。
それは分かっている。だけど…だけど、嘘をつかなきゃ、沙織の笑顔が見れなくなるかもしれない。いつかは言わなくちゃならない。そんなのは分かっている。でも今は…まだ笑顔が見ていたい。
「今日はね、注射打って、ナースさんとお話したら疲れて眠っちゃった。」
「あんまりはしゃぐんじゃないぞー?身体に悪いんだから」
「大丈夫だよ。…宏輔が居てくれれば、安心。」
…よくもまぁ…恥ずかしい台詞をぬけぬけと…。
「お、俺はいつも居るからさ。大丈夫」
そう言うと、沙織は一瞬…悲しげな笑顔を見せた。
沙織の病気はかなり重い病気。
俺と付き合って一年目の、そう、一年目の記念日に沙織は倒れた。デートの帰りに、なんの前触れもなく。突然。
それからずっとこうして入院だ。
最初こそ嫌がっていたが、今はもう慣れたのか。ナースさんとも仲良しだし、病院内にはたくさん友達がいるらしい。
彼女は彼女なりに楽しんでいる。
「宏輔?」
「うん?」
「…ぎゅぅってして」
「…はいよ」
俺は沙織の近くに寄り、ぎゅっと抱きしめる。見舞いに来た日の習慣だ。沙織はこの時間が1番安心するらしい。
「…ん……」
彼女の髪の匂いが鼻を掠める。…なんて言えば良いのだろうか…お日さまの匂いがする。こうやって抱きしめると、沙織の体温、沙織の鼓動。全てが肌を伝い流れ込んでくる。
いつまでもこうしていたい。そんな感じ。