おほしさま-1--2
「じゃあ…離すぞ」
「…待って。もうちょっと…」
そう言って絡める腕に力を入れた。
〜〜〜
「沙織、もう離すぞ?」
「…すぅ…すぅ…」
「寝ちゃったか…」
起きないように、ゆっくりと沙織をベッドに戻す。優しく、ゆっくりと。
沙織は幸せそうな寝顔を浮かべ、静かに寝ている。
「じゃあ、俺も帰りますかー」
沙織の身体に毛布をかけ、窓から空を見上げる。あんなに青かった空が、いまでは真っ赤に染まっていた。おおよそ4時30分あたりだろう。
明日は何持ってこようか…蜜柑かな?そんなことを思いながら、病室のドアを開くと、沙織のお母さんが立っていた。
〜〜〜
「何ですか?大事なお話とは」
あの後、俺と沙織の母さんは場所を変え、公園のベンチに腰掛けた。
「…」
沙織の母、詩織さんは俯いたまま何も言わない。
まさか、沙織の病気が治る方法が見つかったとか?いや、それならもっと喜んで来るはずだし…沙織の病気が悪化…とは信じ難いし…。
「…沙織のことなの」
詩織さんが、俯いたまま言葉を紡ぐ。一つ一つ、絞り出すように。
「何でしょうか?」
平静を装い、応える。
詩織さんの挙動から良い知らせでは無いのは分かった。でも、悪い方向に考えてはいけない。
心臓が不安で張り裂けそうだ。
沙織と会えなくなったら
沙織が危険な状態だったら
嫌な思いが全身を駆け巡る。
「沙織が…どうしたんですか?」
もう一度聞く。
この一言に願いを込めて。
だがその希望は、絶望へと姿を変えた。
「…沙織の、命、は、後、一週間…よ」
end
…next act 《心》