『コワレユク日常』-1
気持ち悪いよな…うん、自分でもそう思うもんな…
俺、笹川翼は20年間生きてきた中で、最大級の悩みに襲われていた。
あいつのことは、最初はただのバイト仲間としか思っていなかった。
それが、音楽の趣味が一緒だって分かって、CDの貸し借りしたり、色々と話すようになっていって。
だけど最近、俺はおかしい。
あいつに会えないと、とても寂しくなって。
あいつの傍にいると、何だか息苦しくなって。
あいつに触れたくて、触れられたくて。
あいつを独占したくて、されたくて。
これは――恋?
出てきた答えに、俺自身が信じられない。
だって、あいつは…
笠原渉は男だぞ?!
トモダチだろう?なんてごまかそうとして見るけど、
上手く感情が処理出来ないままでいる。
受け入れてくれる訳がないよな……
視線が合うと気不味そうに逸らされるのも、二人っきりになるのを避けられてるのも決して、気のせいなんかじゃないから。
ほんの少し前の自分がそうだった。
『例えどんなに相手が綺麗だったり可愛くても、男同士なんて気持ち悪いよ』
そう広言していたのだから、嘲笑ってしまう。
多数派が正しいと信じて、少数派に優しくなかったな、なんて反省してみたり。
『はあ…』
カーペットに寝っ転がって、ため息をつく。
“ため息をつくと幸せがひとつ
逃げていく”なんて謂うけど、もう逃げていく“幸せ”ってヤツもひとつも残っていない気がする。
クズレユク常識
『はあ…』
もう一度ため息をついた、その時
テーブルの上で携帯が震えた。
画面には見覚えのあるナンバー。
引っ繰り返りそうな心臓を抑えて、通話ボタンを押す。
『もしもし?』
『あっ笹川?俺、笠原だけど』
柔らかく響く声に、それだけで涙ぐみそうになる。
なんて、女々しい…
『何?バイトの出、替わって欲しいの?』
声が少しかすれた。気付かれなかっただろうか?
『いや、あのさ…』
どことなく口籠もっている。
『何?どうしたの?』
つい、口調がキツクなってしまうのは、動揺を悟られない為。
『あのさ…最近、お前元気ないじゃん?』
やっぱり…見透かされている?
『そんなこと…ないよ…』
声が震えて、とうてい信じては貰えないだろうけど。
『嘘吐かなくていいよ』
静かな君の声が、鼓動を早めさせる。
『元気ないのは、もしかして俺の所為?』
ミダサレル感情
『……そうだよ…』
ショートした思考で、自爆。
『やっぱり、そうか…そんなに悩ませるつもりじゃなかったんだけど…お前がそういうの嫌いなのは十分判っているから、別に友達以上になりたいとか思っていないから…元気ないお前は見ていたくないんだよ』
『……へ?!』
『…おっ前なぁ…ヒトの一世一代の告白、そんな間抜けな返事で返さないでくれる?』
えっ?告白って?
『はいぃ?!』
『いや、だから…』
君の声が情けなさそうにぼやく。
『…ずっと、君のこと、考えてた』
『はい?』
君の声が裏返る。
『君に会いたくて、でも会うと苦しくて…』
『それって…』
『うん。多分…』
結論なんてとっくに出ているけど、恥ずかしいから、わざと保留にする。
『今、自分の部屋だな?行くから待ってろ!冗談だったら承知しないからな!』
それだけ言って
ツーツーツー
切られて。
ココに来る?!
携帯が手から滑り落ちて、鈍い音を立てた。