恋する少年少女【1】-5
調子に乗ったアタシを遠くから見ていたのは春日くんだった。
「おまえ!!」
微笑みあっていたアタシ達の間に入ると、春日くんはアタシの腕を物凄い力で握った。
その表情はまさに鬼の形相。
夏目くんやアタシが言葉を発する前に、春日くんはアタシの腕を引いて階段をおり、昇降口に出た。
壁にぶつけるようにアタシの手を放すと、春日くんはアタシを睨んだ。
「え…あの」
アタシは恐くて声が出ない。
アタシと夏目くんを見て、ヤキモチ焼いてる?なんだか雰囲気が違うような…
口を開こうとした春日くんをチャイムが阻んだ。
その間、何とも言えない沈黙が流れる。
春日くんはずっとアタシの目を見ていた。否、睨んでいた。
チャイムが鳴り終わり授業が始まる。周りには誰もいない。
春日くんは大きく息を吸うとアタシに怒鳴った。
「俺が相手にしなかったからって、夏目に手ぇ出してんじゃねぇよ!このアバスレ!」
「あ…アバズレェ!?何言ってんの?…てゆうかね、ヤキモチ妬くぐらいならフラなきゃいいじゃん!素直じゃないんだから!」
春日くんの罵声が頭にきて、アタシも珍しく大声で怒鳴ってしまった。
言いおわったアタシは、静まり返った雰囲気に居心地の悪さを感じた。
「…ヤキモチ?」
顔を赤くするアタシを、先程とは違う疑惑の目で見てくる春日くん。
アタシは頭にはてなを浮かべる。
「誰が?」
「え?だから春日くんが…」
「…誰に?」
「だからアタシにだって!」
「……何で!?」
「…え?アタシを好きなんでしょ?」
春日くんはアホかー!!とまた大声を上げた。
「おまえアホか!?誰がお前なんか好きなもんか!」アタシは頭に金ダライを落とされたようなショックを受けた。
「じゃじゃじゃ…な、何で昨日といい今日といいそんなに怒るのよ!?」
「そんなんお前が夏目にちょっかい出すからに決ま…て…」
なんだって?
アタシは目を点にして絶句した。
それは春日くんも同じだった。
言うつもりはなかった言葉が、どうやら勢い余って出てしまったらしい。
彼の秘密。
彼の本心。
報われない恋とはなんぞや?
それは、相手が『女に』興味をもってくれない恋の事
その後、互いに青筋たてたまま生徒指導の先生にしょっぴかれたのは言うまでもない。