恋する少年少女【1】-2
アタシは意を決して話し掛ける。
「この前はごめんね。どうしても…言いたくなっちゃって…――」
ぺこりと頭を下げて春日くんを見ると、先ほどよりかは幾分和かい雰囲気でアタシを見ていた。
「あんたさ…俺と話したことないよね?」
「え?うん」
「…それで何で好きなわけ?」
わからない…と言った表情で、春日くんは腕組みをした。
アタシは春日くんと会話ができることが嬉しく、顔がゆるんでしまう。
「確かに…話したことはないけど、廊下とかでよく見かけてたの。学校の廊下ですれ違う人なんて大概顔も見ないのに…、春日くんは違ったんだ。廊下だけじゃなく、集会とかでも自然と目で追うようになってた。最初はすれ違えるだけで嬉しくて、だんだん声聞きたいとか笑顔を見たいとか…気付いたら…ドンドン好きに…なってて」
途中からアタシは顔を真っ赤にして話していた。
恥ずかしいけど言葉が止まらないのは嬉しいからだろう。
春日くんがアタシを見て、アタシの声を聞いている。
ただそれだけのことに胸がドキドキした。
「…でもそれって…俺の外見を好きなんだよな?」
「…え…」
「ま、本当の俺を知ったら、好きになんてなってないと思うケド…」
呟くようにそう言って春日くんは、レジにきたお客さんの対応をした。
アタシは一歩下がって待つ。
今の言葉…どういう意味なんだろう
「省吾ー!」
いきなり春日くんを呼ぶ声がコンビニに響き、アタシは振り向く。
コンビニに入ってきたのは、学校で春日くんとよく一緒いる男の子だった。
「夏!」
春日くんは驚いた様子で入ってきた男の名を呼んだ。
その瞬間…少しだけ春日くんの表情がパァと明るくなった気がした。
春日くんの友人は、じぃっと見入るあたしに気が付くと、にこっと爽やかな笑顔を浮かべた。
つられてアタシも笑う。
「バイト中に女連れ込んで何してんだよ〜。クビになんぞ」
「ちげーよ、ただの客だ!客!」
『ただの』を強調され、アタシは苦笑いしか出来なかった。
「バイトいつまで?飯食いいこーぜ!」
「行く行く!…っつっても後一時間はある」
夏と呼ばれた男の子は、アタシより頭一つ分は大きくて、春日くんより大人っぽかった。
アタシと同じくらいの身長の春日くんは、時計を見てため息を吐く。
「んじゃ向かいの店で『優雅に』コーヒーでも飲んで待ってるよ」
「優雅に…って」
友人の冗談に、春日くんはかたい表情を崩した。
春日くんの笑顔を、アタシは初めて近くで見た。
かっこいい春日くんが、一瞬にして可愛くなる。
二人の会話をアタシはしばらく黙ってみていた。
『普段の春日くん』は、アタシの心を善いほうにも悪いほうにも締め付ける。
フラれてるのに、そんな顔されたら諦めつかないよ…
「悪ぃな、終わったら行くから」
「おう★なんなら彼女も一緒に食べ行く?」
「「え゛!?」」
ほか事を考えていたアタシは、知らぬ間に肩に手を回され抱き寄せられたことに驚き妙な声を上げた。
と、同時に春日くんも驚いていた。
その動揺っプリに夏と呼ばれた男の子は、悪戯を成功させ満足した子供のような笑顔を見せた。