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狸─PONPOKO─
【ノンフィクション その他小説】

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狸─PONPOKO─-1

───たぬきさん たぬきさん 遊ぼうじゃないか───
───今 ごはんの 真っ最中───
───おかずはなあに───
───うめぼし香こ───
───ひときれちょうだい
   あらあらちょっとがっつきね───

一.

 熊笹や竹で、真昼でも暗い山道を歩いていますと、向こうから赤い服に赤いハイヒールの若い女性が近付いて来ました。
 見知らぬ女性は真横まで来ると、突然、
「私の後ろに何かついていませんか。」
と聞いてきました。
「いいえ、どうかしたのですか。」
「ええ、ちょっとさっき転んでしまって。」
変だな、と思いながら二、三歩進み、気になって後ろを振り返るとその女性は───消えていたのです。

二.

消えてしまった若い女性に出会ってからしばらくたったある日、同じ道を通っていますと今度は、ジーパンをはいた中年の女性が向こうからやってくるではありませんか。
そして又、真横に来て、
「私の後ろに何かついていませんか。」
と聞くのです。
「いいえ、どうかしたのですか。」
「ええ、ちょっとさっき転んでしまって。」
同じだ、と思いながらその女性と別れた直後に後ろを振り返りました。
やはりその女性は───消えていたのです。
その代わり目の前をサーッと一匹の犬が走り去って行きました。
一匹の犬…。
いいえ、あれは一匹の狸だったのです。
たしかにあれは狸でした。

三.

野生の狸を見たことがありますか。テレビや動物園ではなく、目の前で。
恐らくそういった経験のある人は少ないでしょう。それは都心に近付けば近付く程、ないかと思います。
ところが、東京にもまだ野生の狸に出会える場所があるのです。それが私の住む、東京都町田市です。
ここ、町田市は土地の約半分が山や林、畑や田んぼなど比較的緑の多い所です。野生のウサギ、イタチなども見かけます。しかし、野生の狸は約二十年程前までは一匹も見かけませんでした。町田市に狸は一匹もいなかった
のです。

四.

狸たちの故郷は、町田市のお隣りの東京都多摩市です。二十年前、狸たちは町田市よりも緑の豊かだった多摩市で静かに暮らしていました。
しかし、映画監督としても有名な宮崎駿氏の『平成狸合戦ぽんぽこ』を観た事のある人なら知っているかと思いますが、狸たちの暮らしはそう長くは続きませんでした。
多摩ニュータウンの開発事業です。
山は切り崩され、狸たちは生きる場所を失いました。そして何とか逃げて来たのが町田市です。しかし、開発事業というものは人間さえいれば何処でも進められてしまうものなのです。町田市でも多摩市同様、山が切り崩さ
れ新しい住宅街がたくさん建設されました。
そして狸たちは残った山々の奥に追われて行きました。ところが山の奥にも家が立ち並び始めたのです。狸たちに逃げる場所はもうありません。狸たちは遂に人間との共存生活をする様になってしまいました。
そしてその頃から人間たちの中にも“狸と共存を”と、運動をする人々が何人も立ち上がり始めました。今では、町田市の至る所に“狸注意”の道路標識が見られます。マスコミにも協力してもらい、土地や緑、そして狸の
ために山の切り崩しを全員で反対した地域もあります。約五年程前から町田市はこの様に狸のために取り組んできました。
しかし、なくしてしまった山はどんな事をしても戻ってくることはありません。激減してしまった狸の数も、増やすことは難しいでしょう。


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